【医師監修】膝下の筋肉の痛みの原因は?疑うべき疾患や対処法を解説

膝下の筋肉に痛みを感じて、日常生活に支障をきたしている方もいるのではないでしょうか。膝下の痛みの原因は多様で、運動によるものや加齢によるものまでさまざまです。痛みの性質や部位によって適切な対処法が異なるため、原因を特定することが重要です。

 

この記事では、膝下の筋肉の種類や痛みの原因をご紹介します。適切な対処法を知ることで、膝下の痛みの軽減につながるでしょう。

 

膝下についている代表的な筋肉

膝下には多くの筋肉がついており、さまざまな動きのサポートをしています。ここでは、膝下についている代表的な筋肉についてみていきましょう。

 

ハムストリングス

ハムストリングスとは、太ももの裏側についている筋肉群のことです。ハムストリングスは、以下の3つの筋肉で構成されています1)

 

 

大腿二頭筋は膝の外側に、半腱様筋と半膜様筋は内側についており、それぞれ膝を曲げる、股関節を伸ばすなどの作用を持っています。このように、ハムストリングスは太ももにありますが、膝下部分についているため膝関節にも関係しているのです。これらの筋肉は歩行やランニングなど、日常生活やスポーツ活動において重要な役割を担っています。

 

下腿三頭筋

下腿三頭筋とは、ふくらはぎを作っている筋肉群です。下腿三頭筋は、表層部にある腓腹筋(ひふくきん)と、深層についているヒラメ筋で構成されています。これらの筋肉は足関節を下方向に動かす作用を担っており、歩行やジャンプなどのさまざまな動作に深く関わっています。

 

また下腿三頭筋が収縮することで、ポンプのように足の血流が循環しやすくなるのも大きな特徴です2)。これを「筋ポンプ作用」と呼び、その重要性から下腿三頭筋は「第2の心臓」ともいわれています。

 

前脛骨筋

前脛骨筋とは、すねの前面についている細長い筋肉です。すねを作っている脛骨の外側上部から、足の骨にかけてついており、足関節を上方向に動かす作用があります。

 

この作用から、歩行時につま先が地面に引っかからないようにする重要な筋肉といえるでしょう。また、立った状態での姿勢保持にも関与しており、バランスのコントロールもしています3)

 

膝下の筋肉に痛みが生じる原因

膝下の筋肉に痛みが生じている場合、どのような原因が考えられるのでしょうか。ここでは、膝下の筋肉の問題によって起こる疾患を解説します。

 

鵞足炎(がそくえん)

鵞足炎とは、膝関節の直下内側にある「鵞足」と呼ばれる部位に炎症が生じる疾患です。膝関節の下内側には、以下の3つの筋肉がついており、その部分を鵞足と呼びます4)

 

 

これらの筋肉は膝を曲げる作用があり、その動作を繰り返すことで鵞足部分に炎症が起こり、痛みが現れるのです。とくに運動をよくする方や、上記の筋肉が硬い方が鵞足炎を発症しやすいといえます。膝の下の内側が痛い方は、鵞足炎の可能性があります。

 

腓腹筋損傷

腓腹筋損傷とは、下腿三頭筋の1つである腓腹筋が断裂してしまうケガのことです。別名「テニスレッグ」とも呼ばれており、スポーツ活動中に発症することが多いとされています5)。腓腹筋損傷は足に急に体重がかかる、急な方向転換をするなどの動作で起こりやすく、受傷後は痛みや腫れが現れます。

 

腓腹筋のストレッチを行っていない場合にも発症することから、柔軟性が低下した状態での運動にも注意が必要です。身体機能が衰えやすい中高年だけでなく、若い方にも発症する可能性があるため、日ごろからのストレッチが重要です。

 

筋肉以外で膝下に痛みが生じている場合の原因

膝下の痛みは、筋肉だけでなく別の組織の損傷によって起こることもあります。ここでは、筋肉以外で膝に痛みが生じる場合の原因について解説します。

 

膝蓋腱炎(ジャンパー膝)

膝蓋腱炎とは、膝のお皿(膝蓋骨)と脛骨をつなぐ膝蓋腱(しつがいけん)に炎症が起きる疾患です。膝蓋腱に炎症が起こると、膝の下の部分に痛みを感じるようになります。はじめは、運動直後や特定の動きをしたときだけ痛みを感じます。

 

しかし、進行すると階段の上り下りやイスからの立ち上がりなどで痛みが現れ、日常生活のさまざまな動作に支障をきたす恐れがあるのです。バレーボールやバスケットボールなど、ジャンプの多いスポーツをする際に、膝蓋腱にストレスがかかることがおもな発症原因です。そのような原因で発症する傾向にあるため、「ジャンパー膝」とも呼ばれています。ただし、サッカーや陸上競技など、ジャンプ以外の運動でも発症することも少なくありません6)

 

オスグッド・シュラッター病

オスグッド・シュラッター病とは、脛骨についている膝蓋腱が剥離する疾患です7)。小学生から高校生ごろの方に多くみられる膝の疾患で、スポーツによって膝に負担がかかることが原因で発症します。これは、成長期特有の身体の変化も関わっています。

 

この時期は骨の成長が早く、それに筋肉や腱が追いついていない状態といえるでしょう。そのため、膝蓋腱が脛骨を引っ張る力が強くなりすぎて、剥離につながっているのです。おもな症状は膝下の強い痛みや腫れで、動作に支障をきたすことも少なくありません。

 

側副靱帯損傷

側副靱帯損傷とは、膝関節の横についている「側副靱帯」が傷ついた状態のことです。側副靱帯は膝関節の左右についており、側方への動揺を防ぐ役割があります8)。この靱帯が損傷すると痛みとともに、関節の不安定さが感じられます。

 

スポーツや交通事故など、膝に強いストレスがかかることがおもな発症原因です。側副靱帯だけでなく、そのほかの靱帯や軟骨など、複合的に損傷する可能性があります。膝の不安定さを感じた場合は、なるべく早めに医療機関へ受診することが大切です。

 

膝下に痛みが生じた場合の対処法

膝下に痛みが生じた場合、どのような対処をすればよいのでしょうか。ここでは、具体的な対処法について解説します。

 

安静にする

膝下の痛みを感じたら、まずは安静にすることが大切です。痛みの原因はさまざまですが、無理に動かし続けると症状が悪化する可能性があります。とくに筋肉が原因である場合、安静によって損傷した部位の回復を促せるでしょう。

 

ただし、「安静にする」といっても完全に動かさないのもよくありません。活動量を極端に落とすと筋肉が衰えてしまうため、余計にケガや痛みを引き起こすきっかけになります9)。決して寝たきりのような生活は避け、無理のない範囲で身体を動かすことを心がけましょう。

 

ストレッチをする

ストレッチすることで筋肉の柔軟性が改善され、血行の促進につながります。筋肉の柔軟性が改善されれば緊張がやわらぎ、痛みの軽減にもなるでしょう。ストレッチを行う際は、以下の点に注意してください10)

 

 

ストレッチは運動時のクールダウンとなり、ケガ予防にもなるので、ぜひ習慣にしてみましょう。

 

筋トレをする

筋力の衰えによって痛みが出ている場合、筋トレをすることも選択肢の1つです。膝まわりの筋力をつけることで、関節の安定性が高まり、痛みの軽減が期待できます11)。気軽に行える筋トレメニューとしては、以下のとおりです。

 

 

ただし、痛みが強い時期に行うと症状が悪化する恐れがあるため、その際は無理な実施は避けましょう。

 

サポーターをつける

気軽にできる対処法としては、膝サポーターの装着があげられます。サポーターによって膝関節を固定させることで、安定感を高めて痛みの軽減につながります12)。また、サポーターは保温効果も期待できるため、寒さによる痛みの悪化予防にもなるでしょう。サポーターを選ぶ際は、痛みの部位や症状に適したものを選択することが大切です。

 

ただし、サポーターに頼りすぎるのはなるべく避けましょう。常に装着していると、膝の力を使う機会が少なくなり、かえって筋力が低下する恐れがあります。締め付けが強すぎると血行不良を引き起こす恐れもあるため、装着の仕方にも注意する必要があります。

 

膝下の筋肉の痛みが続く場合は医療機関の受診も検討しよう

膝下の痛みは、筋肉の損傷によって引き起こされる恐れがあります。そのほかにも、靭帯や軟骨などの組織が損傷して起こる可能性もあります。膝下の痛みが現れた場合は、まずは安静を心がけ、無理のない範囲でストレッチや筋トレなどを行うことが重要です。必要に応じてサポーターをつけるのもおすすめです。しかし、そのような対処をしても痛みが現れる場合は、医療機関の受診も検討してください。適切な治療を行い、早期から膝の痛みの改善に努めましょう。

【医師からのコメント】
膝の下の痛みは、高齢者だけでなくスポーツをする若い人にも多い症状です。特に部活やクラブなどで毎日スポーツをする方の場合は、自分だけでなく、経験をしたことがある友人などもいるかもしれません。膝の痛みがでてしまったら、まず安静にしましょう。もし腫れや赤みがあれば、氷水でアイシングをするのも効果的です。強い痛みが治ったら軽くストレッチから始め、痛みが2−3割まで改善してきたら筋トレなども検討してもいいでしょう。

ただ筋トレ後に痛みが出たりするようであれば、少し早い可能性があるためもう少し待った方がいいかもしれません。筋トレをする時には正しいフォームで行うように注意しましょう。特にスクワットは、フォームが崩れると膝に負担がかかることもあります。自信がない方は、スポーツクラブなどでトレーナーに確認してもらってもいいかもしれません。

【参考】
1)「ハムストリングスの活動特性に基づいた肉離れ予防トレーニングの選択」東原 綾子、広瀬 統一 日本アスレティックトレーニング学会誌 第3巻 第1号 13〜18(2017)
2)埼玉県立大学|足は健康のもと
3)「立位姿勢における足関節底屈および背屈筋の神経制御メカニズム」小幡 博基 国リハ研紀 30号 平成21年
4)「変形性膝関節症における鵞足症状に対する超音波療法の有効性の検討」三上 達也、吉田 英樹 物理療法科学 第29巻 2022年
5)「腓腹筋内側頭筋腱移行部の断裂(いわゆるテニス・レッグ)について」長元 法喜、水田 博志ら 整形外科と災害外科 36(4)1213~1216 1988
6)東邦大学|膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
7)「Osgood-Schlatter 病の病態と治療 発症から復帰までの現状と今後の課題」塩田 真史 日本アスレティックトレーニング学会誌 第4巻 第1号 29〜34(2018)
8)聖路加国際病院|膝複合靭帯損傷の診断と治療
9)埼玉県立大学|膝の痛みはどうすればよい?
10)厚生労働省|ストレッチングの実際 e-ヘルスネット
11)厚生労働省|変形性ひざ関節症の人を対象にした 運動プログラム
12)産業技術総合研究所|膝サポーターが歩行を“整える”ことを実証

記事監修者情報

相談できる
医療機関
を探す

日本全国からあなたに合った医療機関を探すことができます。

都道府県から探す

地図から探す

フリーワード検索

地域名や医療機関名など、お好きな単語で検索することができます。