【医師監修】前十字靭帯の損傷の原因は?治療方法やリハビリテーションも紹介

前十字靭帯は、大腿骨と脛骨をつなぎ、前後や回旋方向への安定性を保つ強力な靭帯です。前十字靭帯を損傷すると、膝の不安定さが生じたり、日常生活動作に大きな支障が出たりすることも。本記事では、前十字靭帯損傷の原因や治療法、リハビリテーションなどを詳しく解説します。

前十字靭帯とは?

前十字靭帯は、大腿骨と脛骨、膝蓋骨からなる膝関節をサポートし、動きの安定性を保つ靭帯の一つです1)。脛骨が前へ移動しすぎないよう、そして捻りすぎないように制御する役割を持っています。そのため、前十字靭帯を損傷すると、前後方向・回旋方向の2つの方向に動揺しやすくなってしまいます2)

前十字靭帯損傷の原因

膝十字靭帯を損傷する多くの原因は、スポーツによる膝外傷です。バスケットボールやサッカー、ラグビーなどの身体接触の多いスポーツや、スキーなどの着地、急な方向転換や急停止の動作が多いスポーツのほか、交通事故などでも起こります1) 2)

前十字靭帯損傷の症状

前十字靭帯を損傷した際、激しい痛みや「ブツッ」という断裂音(ポップ音)を感じる場合があります。靭帯からの出血により、膝関節内に血液がたまるのは、前十字靭帯損傷の特徴の一つです。膝の腫れによって膝の曲がりが悪くなったり、膝が外れたような感じを覚えたりすることもあります1) 2)

受傷時に強く膝を捻っていた場合、前十字靭帯のほかに、内側側副靭帯と内側半月板の損傷を併発しているケースも。これは「不幸の3徴候」と呼ばれる複合損傷で、コンタクトスポーツでの受傷時などに見られます3)

受傷後、安静にしていれば痛みや腫れは徐々に引き、数週間程度で歩けるようになりますが、靭帯は切れたままの状態です。適切な治療を受けないままでいると、半月板や軟骨にも悪影響を及ぼします1) 2)

日本人の膝の痛みの多くを占める変形性膝関節症の多くは、加齢による軟骨の摩耗が原因です。しかし、前十字靭帯損傷を放置していると、若年者でも変形性膝関節症を発症する恐れがあります3)

前十字靭帯損傷の治療

前十字靭帯を損傷した場合に選択される主な治療法は次の3つです。

治療法はどれか一つのみに絞られるわけではありません。患者さまの年齢や体質、損傷部位、症状などに応じて、選択されます。

それぞれの治療法について詳しく解説します。

保存療法

主に中高年以降の方に行われる治療法です。膝の動揺を抑制するサポーターを装着して、痛みのない範囲で膝関節の可動域訓練や筋力トレーニングを行います1)

前十字靭帯は自然治癒することはありません。競技スポーツへの復帰や機能回復を希望する場合は、主治医と相談のうえ、手術療法を検討しましょう。

手術療法

一度切れてしまった前十字靭帯は、自然に再生することはありません。競技スポーツへの復帰を望む方に対しては、早期の手術が推奨されます。

一般的に、患者さま自身の腱を移植する「前十字靭帯再建術」が選択されます。この手術は関節鏡下で、比較的低侵襲で行うことも可能です。

前十字靭帯が損傷していても日常生活に支障がない場合は、手術をしないこともあります。ただし、前十字靭帯の損傷は、膝のずれや摩耗、膝くずれ(膝が抜ける感じ)の繰り返しにもつながります。膝の機能が悪化して、半月板の損傷に発展することも多いことから、長期的には靭帯再建術を行った方が良いとされています1) 2) 3)

リハビリテーション

前十字靭帯損傷は、受傷後早期からリハビリテーションを行うことが大切です。

手術を行う場合でも、膝の可動域改善や筋力低下予防のために、手術前からリハビリテーションを行います。手術当日はベッド上でのトレーニングを行い、翌日からは本格的なリハビリテーションに移行します。退院後も、通院しながらリハビリテーションの継続が必要です4)

前十字靭帯再建術後、競技スポーツに復帰する前にはおよそ8ヶ月~1年程度の期間が必要です。これはあくまでも目安であり、内側側副靭帯や半月板などの損傷を合併している場合は、術式やリハビリテーションの内容・期間が変わる可能性もあります5)

前十字靭帯損傷は整形外科での治療が必要!

前十字靭帯は大腿骨と脛骨をつなぎ、膝の安定性を保つ重要な靭帯です。前十字靭帯を損傷しても、安静にしていれば日常生活は送れるようになります。しかし、一度切れてしまった前十字靭帯は自然に治ることはありません。スポーツへの復帰や、将来的な変形の予防のためにも、早い段階での手術を受けた方が良いとされています。

もしも前十字靭帯の損傷が疑われる場合は、放置せず、速やかに整形外科を受診しましょう。

【医師からのコメント】
以前は前十字靭帯断裂は、スポーツ選手以外は保存治療とするケースが多かったですが、最近はそのままにしておくと、半月板損傷につながることが多いため手術で治療することが増えてきました。特に40歳未満の若い方であれば手術が推奨されているため、保存治療とするか、手術をするかに関しては、主治医とよく相談しましょう。
また最近は内視鏡手術による低侵襲治療が一般的です。ただ入院期間は施設にもよりますが、1-2週間程度かかることがあるため、学校や仕事の都合などを考えて手術する時期は相談してもよいでしょう。緊急での手術が必要というわけではありませんので、例えば学生の方であれば、夏休みや冬休みを利用して手術を受けられる方が多いです。

【参考】
1) Johnson & Johnson 前十字靭帯損傷
2) 順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科 膝十字靭帯損傷
3) 医療法人全医会 伊藤整形・内科 あいちスポーツ・人工関節クリニック 膝の靭帯損傷とは
4) 米田病院・よねだ整形リハビリクリニック 膝前十字靭帯(ACL)損傷
5) NTT東日本 札幌病院 膝前十字靭帯損傷後のリハビリテーションについて
6) 前十字靭帯(ACL)損傷診療ガイドライン

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