地方でも都市部と変わらない医療を~理学療法士とスポーツトレーナーとして地域の健康を支える~
インタビュー日:2024.08.08
インタビューした医師・専門家
プロフィール 大西メディカルクリニック 齋藤 勝則(さいとう まさとき)(理学療法士) 1985年生まれ、大阪府出身。大阪医専卒業後、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの資格を取得。卒業後に県内の整形外科に就職し、リハビリ助手をしながら県内の高校サッカー部のトレーナーを担当する。後に理学療法士の資格取得を目指して、大阪医療福祉専門学校の理学療法学科に進学。2016年に大西メディカルクリニックへ入職。理学療法士として個別リハビリを担当する傍ら、兵庫大学女子駅伝部のトレーナーとしてメディカルサポートを行う。 |
地域医療において、理学療法士が果たす役割は非常に重要だ。日常生活やスポーツ等で身体に不調を感じたとき、誰に相談すればよいのか悩む方も多いだろう。大西メディカルクリニックでは、理学療法士とアスレティックトレーナーの2つの資格を持つ齋藤勝則先生が、患者様一人ひとりに合わせたリハビリテーションとケアを提供している。今回のインタビューでは、彼が日々の現場でどのように患者様と向き合い、地域医療に貢献しているのかを伺った。
先生からのメッセージ
一度変形してしまった関節は元には戻りません。 痛みにお悩みの方は、我慢せずに専門の医療機関へ一度相談しましょう。 |
スポーツトレーナーとしての価値を高めるために理学療法士の道へ
――――スポーツトレーナーとはどのような資格でしょうか?目指したきっかけについても教えてください。
スポーツトレーナーとは明確に何をするかは定まっておらず、柔道整復師や鍼灸師などがマッサージやストレッチなどの施術を用いて、スポーツの現場で選手の身体のケアを行い、パーソナルトレーナーなどがトレーニング方法のアドバイスやリハビリ指導をサポートする専門職です。わたしはその中でも、日本のトレーナー資格の中で難易度が高いと言われている日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの資格を保有しています。
将来について悩んでいたとき、学生時代にスポーツが好きだったことから、漠然と「スポーツに関わる仕事がしたい」と思うようになりました。そんなときに、スポーツトレーナーという仕事があることを知り、大阪医専への進学を決めました。
卒業して整形外科に入職する際、在学中にお世話になった先生から「本当にやりたいことはトレーナーだろう」と言われ、その先生から県内の高校サッカー部を紹介していただき、スポーツトレーナーとしても活動をはじめました。
トレーナーとしてさまざまな選手と関わる中で、理学療法士を取得して自身の知識の幅を広げたいと思うようになり、整形外科を退職し大阪医療福祉専門学校の理学療法学科に入学しました。
――理学療法士の資格取得後、大西メディカルクリニックへ入職を決めた理由を教えてください。
現在の上司が、以前勤めていた整形外科の先輩でした。理学療法士の学校に進学する際に相談をしていたこともあり、「卒業後に一緒にやらないか」と声をかけていただきました。稲美町という土地に馴染みが無く、地元大阪から遠かったこともあり最初の頃は断っていました。
そんなとき、サッカー日本代表やガンバ大阪などでチームドクターの経験を持つ柳田 博美先生が、大西メディカルクリニックに来られると聞いて「あの先生と一緒に仕事ができるなら」と入職を決めました。
――齋藤先生は兵庫大学の女子駅伝部のトレーナーを担当されているとお聞きしました。その経緯についても伺えますか?
もともとは前院長が兵庫大学の客員教授として在籍しており、当院と大学は関係がありました。当時、女子駅伝部が初めて全国大会に出ることになり、強化指定部として力を入れているということも耳にしていました。
ある日、練習で怪我をした女子駅伝部の選手がリハビリで来院され、私が担当しました。「専用の競技場もなければ、専属のトレーナーもいない」と聞き、全国を目指すチームにしてはあまり環境が整っていない現状を知りました。
そこで「何か手伝えることはないか」と、申し出て2020年からトレーナーとしてサポートさせていただいています。
総合クリニックの魅力と地域ならではのスポーツ外来の必要性
――大西メディカルクリニックの5つの外来について教えてください。
「整形外科」「整形外科(脊椎専門)」「リハビリテーション科」「理学療法」「スポーツ外来」の5つの外来があります。
整形疾患を院長が診察して、症状に応じて治療や薬の処方を行います。手術が必要となる場合は近隣の医療機関を紹介します。紹介する医療機関は加古川市や明石市、神戸市などにある病院に依頼することが多いです。一つの病院に患者様を集中させるのではなく、患者様の希望に沿って様々な病院に送るようにしています。
院長以外にも、脊椎専門の先生に外部から来てもらっているので、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や腰部椎間板ヘルニアといった、主に背骨の症状で来院された方も専門の先生に診てもらえるのも当院の特徴です。手術が必要となった際は、先生の勤め先の病院に紹介となり手術を行い、術後は当院でリハビリできる環境が整っています。
当院は整形外科では珍しく、鍼灸師が多く在籍しているのも特徴です。診察にてリハビリが必要だと指示された場合、電気治療などの物理療法と併せて鍼や灸の治療を受けることができます。当院には約20種類以上もの物理療法機器があり、患者様の症状に応じて利用していただけます。
スポーツ外来では、元サッカー日本代表のチームドクターの経験がある先生がスポーツによる怪我や障害を抱えた患者様の診察を行います。近隣にはスポーツに特化した病院が少なく、稲美町に限らず市外や県外から来院される方もいらっしゃいます。
私が所属する理学療法科では、個別リハビリといって患者様の身体の状況を評価し、症状に応じた運動やストレッチの指導、セルフケアの方法のアドバイスなどを個別に行い、症状の緩和をサポートしています。
――どのような年齢層の方がどういった症状で来院されるのでしょうか?
患者様の多くは高齢の方で、骨折や関節症などの症状が多いです。
当院がスポーツ外来をはじめてもうすぐ10年を迎えるのですが、夕方以降は部活動終わりの学生さんやクラブチームに所属している方なども来院するようになってきています。
スポーツをされている方は、打撲や肉離れといった、下肢の症状でお悩みの方が多く来院されています。
その他にも学生に多い疾患として「腰椎分離症」があります。成長期の腰痛で、腰椎疲労骨折とも呼ばれ、スポーツをしている学生さんに多く見られます。長く続く腰痛の原因が、実は腰椎分離症だったということも少なくありません。当院に腰の痛みでスポーツ外来に来られる若年層の患者様のうち約半数が、腰椎分離症で来院されています。
医療部門だからできるアプローチ。理学療法士としての役割
――医療分野においての理学療法士の役割について、齋藤先生のご意見をお聞かせください。
当院はグループ内で運営する通所リハビリテーションが向かいにあり、他にも訪問リハビリテーションを行っており、介護分野にも力を入れているので、通院できなくなってしまった患者様をフォローできる環境が整っています。
ただし、医療部門と介護部門のどちらにもそれぞれ理学療法士が在籍していますが、兼任はしていないのでセラピスト間の連携という意味では課題があると感じています。
また、施設に入所されると行動範囲が限られ、寝たきりになってしまうリスクが逆に高くなると言われています。そういった問題に対して、外来に来られている患者様になるべく歩行能力を維持させることが私たち医療部門の役割だと思っています。
――地域の患者様と向き合うときに、大切にしていることがあれば教えてください。
患者様一人ひとりを自分の身内だと思って、接するように心がけています。
もし自分の目の前で家族が痛みで苦しんだり悩んだりしていたら、「何とかしてあげたい」と最善を尽くすはずです。これは当院に誘ってくださった上司からの言葉で、その気持ちは今でもずっと大切にしています。
痛みやお悩みの方は、専門の医療機関への受診を
――関節の痛みにお悩みの方に向けて、リハビリや予防について教えてください。
変形してしまった関節を元に戻すことはできません。ですから、痛めてしまった関節に負担がかからないよう筋力や柔軟性を高めるほか、負荷がかからないような動作を覚えることが大事です。
筋力や柔軟性を高めることで関節にかかる負荷を軽減させ、痛みを緩和させる効果が期待できます。また、リハビリだけではなく関節内注射をすることで劇的に痛みが緩和される場合もあるので、膝に限らず痛みに悩んでいる方は一度専門の医療機関へ相談することをおすすめします。
――最後に理学療法士としてこれからのキャリア、叶えたいことについて教えてください。
院長先生が掲げている「地方でも都市部と変わらない医療を受けられるように」という理念に、少しでも力になりたいと思っています。兵庫県稲美町は田舎ですが、それを実現するために自身のレベルアップはもちろん、後輩の育成にも力を入れたいです。
稲美町の地域の方々はもちろん、他の地域の方々からも求められるような、そんな理学療法士を目指したいです。
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