医師インタビュー

世界最先端を走る日本の再生医療。臨床と研究の両輪でひざの痛みに対応するM再生クリニック

      

インタビューした医師・専門家

プロフィール
M再生クリニック
飯塚 翠(めしつか みどり)
 2008年に北京大学医学部卒業。日本・中国医師免許保有。日本美容外科学会(JSAS)。日本皮膚科学会、日本再生医療学会、日本先進医療医師会(JAMA)等の正会員。北京大学付属医学部第三病院、日中友好病院、ハーバード医学部付属Massachusetts General Hospital、Eye & Ear Infirmary、東京大学付属病院、女子医科大学病院を経て、湘南美容クリニックで美容外科医として勤務。2019年にM再生クリニックを開院し、世界中から健康維持を目指した患者が訪れている。幹細胞を使用した関節、肌、頭皮の再生治療を主に行い、症例数は3000件以上。

ますます注目度が高まる再生医療。M再生クリニックは、クリニック内にCPC(細胞培養加工施設)を持ち、幹細胞治療の臨床のみならず研究も行っているという。院長の飯塚翠先生が語る、再生医療の可能性やクリニックにCPCを併設する理由とは。

医師からのメッセージ

「以前から膝が痛い、でもこれまでの治療では効果が持続しなかった。でも手術は受けたくない。」そんな方には再生治療の検討をおすすめします。

アメリカで出会った再生医療に衝撃を受けた

――M再生クリニック様の開院から現在まで、どういったお悩みを持つ患者さまが来院され、どんな医療を提供されてきたのでしょうか?

2019年の開院以来、関節の痛みに対してヒアルロン酸注射などのさまざまな治療をしてきたものの、効果がいまひとつだった経験をお持ちの患者さまが、多く来院されています。特に、大きな手術はしたくないと考える患者さまが、今までになかった新しい治療を求めていらっしゃいます。日本の再生治療は世界で注目されており、現在海外の患者さまが7~8割を占めているのも特徴です。

当院では主に、再生治療といって、患者さま自身から採取した幹細胞を関節に注射する治療を行っています。

例えば、髪の毛は切ってもまた生えてきます。これは体の中の再生能力によって細胞が新しく作られるからです。新しい細胞を作るにはその元となる幹細胞が材料として必須です。ただし、幹細胞は年とともに数が減って、再生能力も衰えてしまいます。そこで、その力を再びよみがえらせるべく、体から少しの幹細胞を取り、体外で培養して数を増やし、また体に戻すことで、患者さまの自然な再生能力を高めて傷などを治していくのが再生治療です。

――再生医療に注目されたきっかけは何でしたか?

私が最初に再生治療に出会ったのは、アメリカのハーバード大学医学部に留学した際、大学病院での研修でペインコントロール(痛みのコントロール)の現場を経験したときでした。

再生医療を受けることで、痛みを訴えられていたアスリートの患者さまの痛みがなくなるほか、膝を曲げることができなかった人が少しずつ曲げられるようになったり、生活の質がぐんと上がっていくのを観て衝撃を受けました。『これからはこの再生治療という医療がどんどん発展していくな』と思いましたね。

ただ、日本では白血病の治療において骨髄ドナーから造血管細胞をもらって投与されることはありましたが、今のように膝の痛みやその他の治療には活かされていませんでした。

日本に戻った後は、痛みのコントロールやアンチエイジングを中心に診療してきました。アンチエイジングとは、単なる見た目の美しさだけでなく、健康に年を取るというのが本来の意味で、そのために丈夫な足腰は必須です。転んで入院してしまうと数週間でたちまち筋力が衰え、歩けなくなります。そして歩かなくなると、認知症のリスクも急速に高まってしまうのです。

大谷翔平選手も採用したPRP療法とは

――変形性ひざ関節症における再生医療とはどういったものか教えてください。

変形性ひざ関節症とは、激しい運動や体重負荷によって膝の関節内にあるコラーゲンや軟骨などが減少することで、膝の曲げ伸ばしがスムーズにできなくなり、炎症が起きて痛みが出てくる病気です。

当院では変形性ひざ関節症に対し、幹細胞をひざ関節の中に直接注射することで、炎症を抑えて痛みを減少させるとともに、長い年月をかけてすり減った軟骨やコラーゲンを再生していく再生治療を提供しています。

主な方法には、PRP療法とAPS療法があります。PRP(platelet-rich plasmaの略)は欧米では広く普及している治療方法で、メジャーリーグの大谷翔平選手や日本野球機構の田中将大選手が受けたことで日本でも有名になりました。

例えば、皮膚を切って出血してもいずれは血が止まり皮膚もきれいに修復されます。このカギとなるのが血小板から放出される成長因子です。血小板の中に含まれる成長因子には、軟骨細胞や骨芽細胞を増加させる、損傷した組織や筋肉を修復する、血管の炎症を調整する、組織修復にかかわる細胞の分裂を促進するといった働きがあります。PRP療法はこの血小板の成長因子を3~5倍にして自己修復力を高める治療です。

APS療法は、PRPにさらに操作を加え、組織の治癒に必要な成長因子を効率よく抽出するものです。PRPよりもさらに効果が高いとされています。PRPとAPSのメリットは手術なしで当日に治療が受けられることです。APSは1回の治療で1年ほどの効果が得られることがわかっています。

――M再生クリニック様で行う、幹細胞を使用した再生治療とはどのようなものですか?

当院で主に行っている幹細胞を使った再生治療は、今までのPRPのような細胞の活性を高めて細胞が組織を修復するのを助ける働きだけでなく、細胞そのものを新しく作ることができます。幹細胞は体内の多くの細胞へと分化して新しい細胞を作り出せる「分化能(ぶんかのう)」という能力があります。

また、修復が必要な損傷のある部位からのシグナルをキャッチし、そこへ集中的に集まって修復していく「ホーミング」という能力も備えています。幹細胞の治療をすることで、今までよりもさらに効果的かつ長期的な改善が望めます。

第1種再生治療が可能なクリニックを目指し、研究を進める

――再生医療を受ける際の注意点や、控えたほうがいい方について教えてください。

簡単な手術で脂肪を採取する前に感染症の検査を行います。ただ、感染症のために再生医療が受けられないことはありません。

手術当日は静脈麻酔を使用する可能性があるため、朝食を食べずに来ていただきます。術後1週間くらいは創部を濡らさずに激しい運動を控える必要がありますが、簡単なウォーキングや日常生活に支障はありません。 がんの方は現在まだ安全性が確定されていませんので、再生治療を受けることができません。

――クリニックの特徴はどんなところですか?

当院では、CPC(細胞培養加工施設)を併設しているのが特徴です。併設しているのは、ふたつの理由があります。

ひとつは、患者さまの体から摂取した幹細胞を、培養するためです。再生医療において、その細胞の質がきわめて重要です。CPCを併設していない場合では、輸送中の温度や湿度の変化、揺れなどで細胞が死んでしまいます。それが当院では、細胞を採取してすぐに併設のCPCで輸送を経ずに培養できるため、輸送中の細胞へのダメージを最小限に抑えることができ、質がいい細胞を提供できます。

もうひとつは、研究を強力に進めていくためです。当院では、東京大学医科学研究所、生育病院、順天堂大学病院などとパートナーを組み、再生医療について日々研究を行っています。再生医療法では、第1種、第2種、第3種の分類があります。現在は幹細胞を使用する第2種ですが、当院ではさらに上の第1種再生治療の治療を目指して研究を進めています。実現すればクリニックレベルでは国内初となります。

クリニックに併設されたCPCラボ

――そのほかに、クリニックの特徴はありますか?

患者さまが、落ち着いた環境で治療を受けられるようにすることを大切にしています。インテリアをホテルのように整えており、流れているBGMや温度も、患者さまに応じて変えています。痛みのコントロールには、そのように一人ひとりの患者さまに合わせて、ストレスをケアすることも重要です。このようなサービスは、体験してぜひ実感してもらいたいですね。

待合休憩室は、国外からの患者様に合わせて内装が異なるルームを用意
飯塚 翠院長のお父様、飯塚啓介先生はがん免疫治療のパイオニア、再生医療の名医として知られている

――日本における再生医療のこれからについて教えてください。

日本は、山中伸弥先生がiPS細胞でノーベル賞を受賞されてから、再生治療に非常に力を入れていて、世界で最先端を進んでいます。海外ではまだできない再生治療が、日本では厳しい法整備のもと可能になっているのです。 当院は再生治療の専門クリニックとして、これからもほかのクリニックではできない最先端の治療を提供し、患者さまに希望を与えていきたいと考えています。まだ詳細は言えませんが、数年以内には糖尿病やがんの患者さまに対して今までになかった画期的な治療ができるよう、準備を進めています。

           

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