まつだ整形外科クリニックは、再生医療で「ひざ革命」を起こす
インタビュー日:2025.07.02
インタビューした医師・専門家

プロフィール まつだ整形外科クリニック 院長 松田 芳和(まつだ よしかず) 1994年、富山医科薬科大学(現 富山大学)医学部を卒業後、同大学の整形外科学教室に入局。その後、軽井沢病院、石井クリニック、湘南鎌倉人工関節センターを経て、2010年に医療法人社団nagomi会の設立とともに、まつだ整形外科クリニックを開院。ドイツやアメリカの医療機関への留学経験も持つ。専門分野は膝関節の疾患で、人工膝関節置換術の実績も豊富。近年は再生医療に着目し、医院でこの治療を提供するほか、著書「ひざ革命 -最期まで元気な歩行を可能にする再生医療-」も執筆。熊谷さくらマラソン大会にランニングドクターとして参加したり、熊谷市民を対象とした市民公開講座を開催したりするなど、地域医療に貢献するための取り組みを行っている。 |
変形性膝関節症に対する治療法のひとつとして注目されている再生医療。その確かな効力を人工膝関節置換術の実績が豊富な医師も認めている。再生医療の効果や可能性について、どのように捉えているか。まつだ整形外科クリニックの松田芳和院長に話を伺った。
先生からのメッセージ
膝関節の疾患に対しては、早期から再生医療を含め適切な治療を受けて、進行を予防することが大切です。それによって、健康寿命の延伸につながります。 |

再生医療は膝の痛みを解消するための選択肢になる
――松田先生は、『ひざ革命』という本を執筆されています。この経緯についてお教えください。
ありがたいことに、今まで多くの方々から膝関節の疾患を診させていただきました。症状が比較的軽ければ、関節内注射やリハビリなどの保存療法で改善する方が大勢います。しかし、症状が悪化していれば、残念ながら手術が必要になってしまう方も少なくありません。その中には、手術を受けたくても、さまざまな事情で断念しなければならない方もいます。たとえば、患者さまを取り巻く社会的背景をはじめ、高齢化や合併症などの医学的な問題が要因となります。「このような方々をどうすれば救えるか」。そう考えていた中で、再生医療という新たな選択肢を知りました。当時、再生医療は科学的エビデンスがあるものの、まだまだ認知されていない治療法でした。そこで、「再生医療は膝の痛みを解消するためのひとつの選択肢になるから、多くの方々に知っていただきたい」。そんな思いから執筆することにしたのです。
――まつだ整形外科クリニックでは、「ひざドック」というサービスを提供されています。こちらは、どのようなきっかけで始められたのでしょうか?
膝関節の疾患が重症化してしまうと、日常生活に支障をきたすだけでなく、Quality of Life(生活の質)を落としてしまいます。実際に、膝を代表とする運動器・関節疾患は、要支援・要介護につながる原因の中で約4分の1を占めるほどで、もっとも高い割合になっています。
つまり、膝関節の疾患を早期に発見し、適切な治療をすれば、進行を予防できる。さらに、要支援・要介護を防げるうえ、健康寿命の延伸にもつながります。そのため、膝関節の疾患を早期に発見し、適切な治療提案を受けられる機会が必要だと考えました。ここから始めたのが、「ひざドック」です。健康診断や人間ドック、がん検診などを参考に、膝関節の状態を検査するためのサービスを提供するようになりました。
このサービスを開始してから約10年が経過していますが、まだまだ認知度は高くありません。今後、院内外で「ひざドック」の重要性について発信していきたいと考えています。
――代表的な膝関節の疾患として、変形性膝関節症があります。この疾患は、どのような症状が見られるのでしょうか?
変形性膝関節症は進行レベルによって、症状が異なります。初期は膝にちょっとした違和感を覚えるほか、椅子から立ち上がったり、階段を昇り降りしたりするとき、膝に痛みを感じます。中期は膝の可動域が狭まることから、正座やしゃがみ込むという動作がつらくなるでしょう。膝に水が溜まりやすくなるケースもあります。末期は歩くたびに膝が痛むようになるだけでなく、安静中に痛みを感じることもあるでしょう。
日本人は、膝の痛みに対して我慢しがちです。その結果、重症化してしまった事例を多々見てきました。膝の痛みや違和感に気づいた時点で、医療機関で検査や診断を受けることをおすすめします。もし、症状が悪化して膝関節が変形してしまった場合、再生医療では症状の改善はもちろん、変形自体も修復できないため、手術療法を受けることになるでしょう。
――松田先生が変形性膝関節症と診断された場合、どのような治療方法をご案内されますか?
まず、生活指導としての減量、膝を支えている大腿四頭筋の筋力アップ、リハビリや注射治療などの保存療法をご案内します。これらを行っても症状が改善されない場合は、手術や再生医療という選択肢があることをご説明します。もちろん、手術も再生医療も魔法の注射ではありませんので、全員が効果を得られるとは限りません。当院での手術および再生医療の治療実績などについてしっかりと説明したうえで、骨切り術や人工関節置換術などの手術、または再生医療のどちらを選択されるか、患者さまと一緒に考えて治療方針を決めるようにしています。
再生医療は、患者さまにとってマイナスにはならない
――まつだ整形外科クリニックでは、変形性膝関節症に対して再生医療をご提案されています。改めて、再生医療とは、どのような治療法でしょうか?
再生医療とは、患者さま自身の細胞や血液を用いて、組織の修復や再生を促す治療法のこと。自身の身体の一部を利用することから、安全性の高さが特徴です。関節疾患に対して、今までの保存療法、手術療法に代わる、新たな治療法として注目されています。
再生医療を提供するために、患者さまの細胞を培養したり、血液内にある血小板を濃縮したりするための設備を整えている整形外科医院もありますが、多額の初期投資が必要になることから、細胞や血液の加工を専門業者に委託している医院がほとんどです。当院も提携企業に再生医療用の細胞、血液の加工を委託しています。
――まつだ整形外科クリニックで、再生医療を提供されるようになったきっかけについてお教えください。
湘南鎌倉人工関節センターに勤めていた際、数多くの人工関節置換術を経験しました。「手術は素晴らしい治療法ではあるものの、ある一定の確率で術後感染などの合併症が起こるリスクがあることから、完璧ではない」。そう実感していたため、手術をしない治療方法を模索していた中で、日本で再生医療の提供を始めることを知ります。この治療法について関心を持ち、論文などから情報を収集したところ、膝関節の疾患に対する治療として大きな可能性を秘めているうえ、患者さまにとっても、私たち医療サイドにとっても魅力的な治療法になると思い、当院で提供することにしたのです。当時、当院は日本の整形外科医院の中でも先駆けて、APS療法1)を提供したことを覚えています。
――再生医療のメリット、デメリットについて、松田先生はどのように捉えていますか?
再生医療を受けた場合、たとえ効果を感じられなくても、症状が悪化するケースはほぼありません。したがって、再生医療は患者さまにとってマイナスにならない点がメリットになります。個人差はありますが、どれだけプラスになるかだけですね。
一方、関節疾患に対する再生医療は原則、保険診療ではなく自費診療の対象になるため、患者さまの金銭的な負担が大きくなることがデメリットです。しかし、再生医療を受けることで症状が軽減され、手術を避けられるケースも少なくありません。その場合、再生医療の費用対効果は高いと言えます。


当院では、変形性膝関節症のグレード4でも治療効果が見られた
――まつだ整形外科クリニックでは、どのような再生医療をご用意されていますか?
当院では、ASC療法2)とPFC-FD™療法3)、APS療法を用意しています。この中で、もっとも治療効果を得られるのはASC療法です。幹細胞のさまざまな働きによって痛みの緩和、改善はもちろん、軟骨の修復、再生も期待できます。ただし、高額な治療費がネックになるでしょう。
治療費で悩まれている方には、PFC-FD™療法をおすすめしています。注射後の副反応がほぼないためで、身体に優しい治療法です。一定期間の治療効果を期待できるため、費用対効果の面でも優れていると言えます。そして何より、私自身がPFC-FD™治療を受けて、とても症状が改善した実体験もあることから、ご提案しています。
――まつだ整形外科クリニックでの再生医療の治療実績についてお教えください。
当院では膝を中心に、肩や股関節などの疾患に対して数多くの再生医療を行っています。再生医療をスタートして以来、一人ひとりの治療データを蓄積、解析してきました。これらの治療結果は学会発表や論文、そして講演などを通じて公開しています。治療結果のひとつとして、変形性膝関節症の場合、重症化しているほど再生医療の治療効果が低くなる一方で、初期症状で始めれば高い確率で治療効果を期待できることがわかりました。
レントゲン写真から、変形性膝関節症の進行レベルをグレード0~4で評価する方法があります。グレード2は初期症状を示しており、このレベルで再生医療を受けた場合の奏効率(効果を得られた患者さまの割合)は約80%。重症を示すグレード4の場合は約50%で、グレード2から4までの累計は約60%でした。なお、この奏効率はかなり厳しい判定基準のもとに算出されており、患者さまの満足度からするともう少し高い数値になると考えています。当院では、こうした奏効率などの情報を正確かつ正直に伝えているため、患者さまも納得感を持って再生医療を受けられていると思います。
――まつだ整形外科クリニックは、どのような強みがありますか?
当院では再生医療を受けた方を対象として、治療から6ヶ月後にMRIを用いて経過観察を行います。治療前後の画像を提示することで、患者さまが患部の状態を視覚的に捉えられるようにするためです。仮に、再生医療を受けても症状が改善されなかった場合は手術療法をご提案します。その手術も外勤先の医療機関で私が立ち会いながら行うほか、術後のリハビリも当院で取り組めます。このように膝関節の疾患に対しては、保存療法から再生医療、手術、術後のリハビリまでトータルでサポートしていることが当院の強みです。

再生医療で人生が大きく変わった方を目の当たりにする
――最後に、再生医療を検討されている方にメッセージをお願いします。
再生医療は、患者さま自身の細胞や血液を用いるため、身体からの拒否反応が少ないのが魅力のひとつです。繰り返しになりますが、患者さまにとってマイナスになることはありません。個人差はありますが、どれだけプラスになるかだと思います。
再生医療を受けた結果、人生が大きく変わった方々も目の当たりにしてきました。あるトライアスロンの選手は、どこの医療機関でも手術しか治療方法がないと言われていましたが、当院で再生医療を受けた後、見事に競技に復帰しました。また、膝の痛みから数分間しか歩けなかった方が再生医療を受けたところ、ご家族と旅行を楽しめるほど歩けるようになったうえ、笑顔と生きがいを取り戻したこともありました。私自身も膝の半月板損傷を患った際、再生医療を受けたことで症状が改善し、フルマラソンやトライアスロンを完走できるようになった経験があります。
再生医療は万能薬ではありませんが、症状を改善するだけでなく、健康寿命の延伸へと導く可能性を秘めています。だからこそ、膝の痛みでお悩みなら、早めに再生医療を受けることを検討しても良いでしょう。
1)APS療法:Autologous Protein Solutionの略称で、自己タンパク質溶液のことを言います。自身の血液から良質なタンパク質と、成長因子を高濃度で抽出。それを患部に注射することで、炎症を抑えたり、軟骨を保護したりする治療法です。
2)ASC療法:Adipose-derived Stem Cellの略称で、脂肪由来培養幹細胞のことを指します。自身の脂肪内にある幹細胞を抽出、培養。それを患部に注射することで、関節の変形や炎症を抑制したり、軟骨の再生や組織の修復を促したりする治療法です。
3)PFC-FD療法:Platelet -derived Factor Concentrated Freeze Dry の略称です。自身の血液内にある血小板の中から、成長因子を濃縮して抽出。それを患部に注射することで、組織の修復や再生を促す治療法です。成長因子を凍結乾燥させるため、長期保存ができることも特徴です。
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