記事監修者:松繁 治 先生
股関節のストレッチは、筋肉の柔軟性を高めるためには欠かせない運動です。ストレッチは普段の生活だけでなく、股関節の疾患を発症した後の治療として行われるケースもあります。なかには、どのような方法で股関節をストレッチすれば良いのかわからない方もいるでしょう。
今回の記事では股関節のストレッチの効果や具体的な方法をご紹介します。具体的な方法を知ることで、股関節のストレッチを習慣づけられるでしょう。
股関節のストレッチの一般的な効果
ここでは股関節のストレッチの一般的な効果についてみていきましょう。ストレッチとは筋肉や関節を伸ばす運動のことで、身体の柔軟性を高める効果があるとされています。柔軟性を高めるだけでなく、キレイな姿勢の保持やリラクゼーションなどの効果も期待されています1)。
準備運動としてストレッチを行うことも多いでしょう。ストレッチによって股関節まわりの柔軟性を高めておくことで、運動時のケガ予防につながります。また、運動後のストレッチは疲労回復に効果的とされています2)。
股関節の代表的な疾患
後ほど解説しますが、股関節の疾患を発症した際も、症状の悪化予防としてストレッチが行われることも珍しくありません。ここでは、股関節の代表的な疾患についてもご紹介します。
変形性股関節症
変形性股関節症とは、股関節にある軟骨がすり減り、さまざまな症状が現れている状態のことです。軟骨には関節の動きをスムーズにする働きがありますが、すり減ることで本来の役割がうまく機能しなくなります。
変形性股関節症のおもな症状は、以下のとおりです。
- 関節の痛み
- 可動域の低下
- 跛行(正常な歩きができないこと)
これらの症状が進行すると、日常生活に支障をきたす恐れがあります。
変形性股関節症は、原因がわからない「一次性」と、明確なきっかけがある「二次性」に分けることが可能です。一次性の変形性股関節症は、加齢や体重の増加などの要因が積み重なって起こるとされています。二次性は先天性の異常や後天的な疾患によって起こり、その多くは「発育性股関節形成不全」が原因とされています3)。
大腿骨頭壊死症
大腿骨頭壊死症とは、大腿骨頭(股関節を作る部位)に流れる血流が障害されることで壊死が生じている状態です。
大腿骨頭壊死症では、以下のような股関節の症状が現れます。
- 動作時の股関節痛
- 痛みによる可動域の制限
- 坐骨神経痛
その他にも腰痛や膝痛など、股関節以外の部位に痛みが生じるケースも珍しくありません。
大腿骨頭壊死症は、明確な原因がみられないものを「特発性」と呼び、明らかな原因があるものを「症候性」と呼びます。症候性の大腿骨頭壊死症は、外傷や塞栓症(血管が詰まってしまうこと)などがきっかけとされています4)。
臼蓋形成不全
臼蓋形成不全とは、股関節のくぼみを作っている「臼蓋(寛骨臼)」と呼ばれる部分が不完全となった状態のことです。臼蓋によるくぼみがないと大腿骨頭がうまくおさまらず、股関節が不安定となります。
股関節の痛みや可動域制限などの症状をともなうこともあり、進行すると変形性股関節症に移行する恐れもあるでしょう。臼蓋形成不全の原因は遺伝的な要素が多く、その割合は女性に多いとされています5)。
リウマチ性股関節症
リウマチ性股関節症とは、関節リウマチによって股関節に炎症が起こっている状態のことです。リウマチは免疫異常によって引き起こされるもので、自身の関節を攻撃して破壊してしまうのが特徴です。
リウマチ性股関節症では股関節の痛みや可動域制限だけでなく、進行すると骨・関節の変形をきたします。骨や関節の変形が進むと股関節で体重が支えられなくなり、歩行困難となるケースもあります。リウマチは遺伝や喫煙などの環境要因が重なることで起こるとされていますが、明確な原因はわかっていません6)。
大腿骨頸部骨折
大腿骨頸部骨折とは、大腿骨の付け根の部分が骨折する疾患です。大腿骨頸部骨折を発症すると痛みが現れ、立つ・歩くことが困難となります。大腿骨頸部骨折は転倒時の衝撃によって起こりやすく、加齢や運動不足による骨密度の低下がおもな発症原因です。
とくに、骨がスカスカとなる「骨粗鬆症」を持つ高齢者に起こりやすいとされています7)。高齢者は大腿頸部骨折を発症すると寝たきり状態になりやすく、さらに身体機能が低下する悪循環となる恐れがあります。
股関節の疾患では保存療法でストレッチが行われる
股関節の疾患を発症した場合、保存療法の一環としてストレッチが行われることがあります。保存療法とは、手術療法を行わずに症状の維持・改善を図る治療法です。ここでは、股関節の疾患に対するストレッチの役割や、保存療法について詳しく解説します。
股関節の疾患に対するストレッチの役割
股関節の疾患に対するストレッチの役割は、おもに可動域の改善です。股関節疾患によっては、症状が進行したときに股関節まわりの組織が固くなり、可動域制限を生じることがあります8)。その際にストレッチを行い、筋肉や関節の柔軟性を高めることで、可動域の維持・改善が期待できます。
関節可動域の制限が出ていない場合でも、予防としてストレッチを習慣として行うことも大切です。
ストレッチ以外で行われる保存療法について
ストレッチ以外で行われる保存療法のおもな内容は、以下のとおりです3)。
- 薬物療法(鎮痛剤やヒアルロン注射など)
- 運動療法(筋力トレーニング)
- 生活指導
- 体重のコントロール
とくに薬物療法や運動療法は、保存療法のなかでも代表的な治療法といえるでしょう。股関節にかかる負担を軽減するために、日常生活での動作指導や体重を減らす方法を取り入れることもあります。
このように、保存療法ではストレッチ以外にもさまざまな治療法で股関節の症状の悪化予防を目指します。
保存療法以外の治療法について
保存療法以外の治療法には、「手術療法」と「再生医療」があります。手術療法は、保存療法を行っても症状の改善がみられず、悪化している場合に検討されます。手術療法の内容は疾患によってさまざまです。たとえば、変形性股関節症の症状が進んでいる場合、「人工股関節置換術」と呼ばれる股関節を人工物に入れ替える手術を行うことがあります3)。
再生医療とは、人が持っている自然治癒力を活用した治療法です9)。人体の細胞や血液中の有効成分などを抽出し、患部に注射することで損傷した組織の修復が期待できます。再生医療は新しい治療法として研究が進められており、実際に提供を開始している医療機関も少なくありません。
股関節のストレッチ方法
実際にどのような方法で股関節をストレッチすれば良いのでしょうか。ここでは状態別のストレッチ方法についてご紹介します。
寝た状態で行うストレッチ方法
ここでは寝た状態で行うストレッチ方法をみていきましょう。
【大殿筋と腸腰筋のストレッチ】
- あお向けの状態になる
- 片方の膝を曲げて、両手で膝裏を持つ(もう片方足は伸ばしたまま)
- 膝をできるだけ身体に近づける
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
お尻の筋肉である「大殿筋」と股関節前面についている「腸腰筋(ちょうようきん)」を伸ばすストレッチ方法です。腸腰筋は股関節を曲げる働きがあります。
【大腿四頭筋のストレッチ】
- うつ伏せの状態になる
- 片方の膝を曲げて、手で足を持つ
- かかとをできるだけお尻に近づける
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
太もも前面の大腿四頭筋のストレッチ方法です。
座った状態で行うストレッチ方法
ここでは座った状態で行うストレッチ方法をみていきましょう。
【ハムストリングスのストレッチ】
- イスに浅く座り、片方の膝を伸ばす
- 伸ばした足に向かって上体を近づける
- 20秒ほどキープしたら反対の足で行う
太ももの裏についているハムストリングスのストレッチ方法です。
立った状態で行うストレッチ方法
ここでは立った状態で行うストレッチ方法をみていきましょう。
【腸腰筋のストレッチ】
- 立った状態で片足を後ろに引く
- 引いた足は伸びた状態で、つま先だけをつけたままにする
- 引いた側の骨盤を前に出すイメージで、その状態を20秒ほどキープする
- 反対の足で行う
姿勢をまっすぐの状態を維持しながら行うことで、さらに腸腰筋をストレッチできます。
股関節のストレッチを行う際の注意点
ここでは、股関節のストレッチをする際の注意点について解説します。
なるべく20秒以上かけてストレッチをする
ストレッチする際は、なるべく20秒以上かけて筋肉を伸ばしましょう10)。筋肉の柔軟性を高めるためには、ある程度の時間をかけてストレッチする必要があります。ストレッチの時間が短いと、筋肉が硬くなろうとする反応を起こしてしまい、かえって逆効果となる場合があります。ストレッチする際は焦らず、ゆっくりと時間をかけて行いましょう。
痛みが出ない範囲でストレッチする
ストレッチは痛みが出ない範囲で行いましょう。痛みが出るまでストレッチすると、筋肉が縮む反応が現れて柔軟性の低下につながります10)。ストレッチは強い痛みを出さずに、気持ち良いと感じる程度にとどめることが大切です。
また、股関節疾患の種類によっては、脱臼のリスクも注意する必要があります。股関節疾患を発症している方は必ず医師に相談して、ストレッチをして良い範囲を聞いておきましょう。
呼吸を止めないで行う
ストレッチ中は、呼吸を止めずに行いましょう。呼吸を止めていると血圧が高まる恐れがあります10)。集中してストレッチしていると呼吸が止まりがちなので、リラックスしながら行ってみてください。ゆっくり深呼吸をしながら行えば、リラクゼーション効果も高まるでしょう。
股関節のストレッチで筋肉の柔軟性を高めよう
股関節のストレッチは、筋肉や関節の柔軟性を高めるためには欠かせない運動です。また、ストレッチは股関節疾患を発症している方に対しても、保存療法の一環として行われています。症状の進行で関節可動域の制限がみられる疾患もあるので、継続的なストレッチが効果的な場合もあるでしょう。ストレッチする際は、なるべく時間をかけて呼吸を止めずに行うことが大切です。股関節の固さが気になる場合は、ぜひストレッチを行ってみましょう。
医師からのコメント
股関節ストレッチは重要なエクササイズです。
股関節は日常生活で座ったり歩いたりする際に使用されるため、柔軟性を保つことで痛みの改善や怪我の予防を行うことができます。
またストレッチをする際の注意点として、体が冷えた状態で無理に行うことは避けた方がいいでしょう。一番いいのは、入浴後などで体が温まった時などです。また寒い日の屋外などは避け、暖かい屋内で行うようにしましょう。
また勢いをつけずにゆっくり伸ばすこと、深呼吸をしながら行うことも大切です。勢いをつけすぎると、股関節周囲の筋を痛めてしまうことがあります。
定期的に行うことで柔軟性を維持し、股関節の健康を促進するために役立つでしょう。個々の体の状態に合わせて適切なストレッチを行うことを忘れないようにしましょう。
【参考】
2)「筋疲労回復にはどのような方法が最も効果的か?」石田 浩司、高石 鉄雄、宮村 実晴 デサントスポーツ科学 Vol.13
5)順天堂大学医学部附属静岡病院|多血小板血漿(PRP)による治療外来について
6)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
10)厚生労働省|ストレッチングの実際 - e-ヘルスネット
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