【医師監修】股関節の代表的な手術や疾患は?手術の利点・注意点も解説

股関節に関係する疾患はさまざまな種類があり、その症状にあわせて手術が行われます。実際にどのような手術が行われるのか気になる方もいるのではないでしょうか。股関節の疾患で行われる手術は異なり、それぞれの利点や注意点についておさえておくことが大切です。


この記事では、股関節の代表的な疾患や手術内容について解説します。手術について知ることで、股関節の疾患を治療する際の心がまえができるでしょう。

股関節の手術が必要な代表的な疾患

手術が必要になる股関節の疾患は多くあり、それぞれ症状や発症原因が異なります。ここでは、股関節の代表的な疾患についてご紹介します。

変形性股関節症

変形性股関節症とは、股関節にある軟骨がすり減り、さまざまな症状が起きている状態のことです。
変形性股関節症のおもな症状は、以下の通りです1)

 

関節軟骨のすり減りが進行すると、上記の症状がさらに悪化し、日常生活の動きに支障が出やすくなります。変形性股関節症の原因には2種類あり、明確なきっかけがわからない「一次性」と、先天的な問題による「二次性」のものです。


一次性は加齢の変化やスポーツ、肉体労働などによる股関節への負担が原因とされています。二次性では「発育性股関節形成不全」と呼ばれる、股関節の構造に問題が生じる疾患がおもな原因とされています1)

 

寛骨臼形成不全

寛骨臼形成不全とは、骨盤の「寛骨臼」の形状が十分に成長せず、不完全な状態となっている疾患です。通常、大腿骨の骨頭が寛骨臼におさまって股関節が作られます。しかし、寛骨臼形成不全になると骨頭と寛骨臼の適合が悪くなるため、股関節の痛みが現れるのです2)

股関節にストレスがかかり、軟骨もすり減りやすくなるので、変形性股関節症につながる場合もあります。寛骨臼形成不全の原因は二次性によるものが多い一方で、症状もない状態で自然に発症するケースもあるとされています3)

大腿骨骨頭壊死症

大腿骨骨頭壊死症とは、大腿骨に流れている血管の血流障害により、骨頭の壊死が生じる状態です。症状としては動作時の股関節の痛みや動きの制限などがあげられます。初期症状では股関節の痛みがないこともあり、疾患が進行してから自覚するケースも少なくありません4)

大腿骨骨頭壊死症は明らかな原因が認められている「症候性大腿骨頭壊死症」と、そうでない「特発性大腿骨骨頭壊死症」に分類されます。症候性の骨頭壊死症は、外傷やなんらかの物質によって血管が詰まる塞栓症などがおもな原因です。一方で、特発性によるものは薬やアルコールなどが原因ではないかと考えられています4)

関節リウマチ


関節リウマチとは、自身の免疫機能の異常によって関節に炎症をきたす疾患です。「滑膜」と呼ばれる、関節の動きを良くする組織が炎症し、増殖することで軟骨や骨などの破壊が進行します。関節リウマチは指や手の関節から症状が現れやすく、次第に股関節や膝関節などに広がっていきます。

関節リウマチの症状は関節の痛みや腫れ、熱感などです。関節リウマチは30〜50代の方が発症しやすく、その比率は女性の方が多いとされています5)

明確な原因はわかっていませんが、以下の要因が重なることで発症するとされています5)

大腿骨寛骨臼インピンジメント

大腿骨寛骨臼インピンジメントとは、足を曲げたときに大腿骨の骨頭と寛骨臼がぶつかり、周辺の組織が傷つく疾患です。おもに寛骨臼についている関節軟骨や関節唇(関節を安定させている組織)が損傷し、痛みが現れます。

大腿骨寛骨臼インピンジメントはスポーツ障害の1つで、しゃがみ込みのような股関節の大きな動作がおもな発症原因です。その他にも、先天性による大腿骨や寛骨臼の形成異常も原因の1つです6)

股関節の代表的な手術内容

股関節の疾患が進行した場合、手術による治療が検討されます。股関節の疾患によって、手術内容も大きく異なります。ここでは股関節の代表的な手術内容についてみていきましょう。

人工股関節置換術(THA)

人工関節置換術(以下:THA)とは、大腿骨の骨頭と寛骨臼の両方を人工物に取り替える手術です7)。疾患によって損傷されている骨を取り除けるので、症状による痛みや動作制限の改善が期待できます。変形性股関節症や大腿骨骨頭壊死症など、骨頭や寛骨臼の障害が進行する疾患が手術対象です。

また切開する場所を小さくして、筋肉や皮膚への負担を最小限にした「最小侵襲(MIS)THA」という手術法もあります。THAによる入院期間の目安は1か月程度で、早ければ2〜3週間での退院も可能です8)。THA後は、股関節が脱臼しないように激しい運動や関節を無理に曲げる動作に注意する必要があります。

臼蓋形成術

臼蓋形成術とは、自身の骨を「臼蓋」付近に移植し、股関節を補強する手術です2)。臼蓋とは寛骨臼の穴の部分で、そこに骨頭がはまり込むことで股関節ができます。

臼蓋形成術では、骨の移植によって臼蓋を深くして、骨頭をしっかりとはめ込めるようにします。臼蓋形成術は、寛骨臼形成不全やそれにともなう変形性股関節症の方がおもな対象です。疾患の症状がそこまで進行しておらず、関節軟骨が残っている場合は、治療後の状態は良好とされています6)

股関節鏡手術

股関節鏡手術とは、内視鏡を挿入しながら手術をする方法です。カメラで股関節の状況を確認しながら手術ができるため、損傷した部分をピンポイントで治療するときに行われます。

股関節鏡手術の対象には、大腿骨寛骨臼インピンジメントや股関節唇損傷など、特定の部分が損傷している疾患があげられます。股関節鏡手術は低侵襲な手術なので身体への負担が少なく、手術後は早期から生活・社会復帰が可能です。ただし、難易度が高い手術方法のため、対応している病院は少ない傾向にあります9)

股関節の手術を行うメリット

股関節の手術を行うメリットとして、以下の点があげられます10)

手術による治療は疾患の根本的な問題を解消できるので、さまざまなメリットがあります。たとえば、変形性膝関節症による痛みがあり、THAの手術を行うとします。股関節を人工物に取り替えるので、変形性股関節症による問題が解消され、痛みや機能の改善につながるでしょう。

手術によって一時的に身体に負担はかかりますが、リハビリ後は股関節の痛みに悩むことなく生活を送れます。また、痛みや機能が改善されれば、自分でできることが増えてQOLの向上も期待できます。

股関節の手術を行う際の注意点


股関節の手術を行う際の注意点としては、以下の通りです1)


手術で股関節を切開しているときに、細菌感染が生じる恐れがあります。細菌が感染をすると治療期間が長引く、再度手術をするなどの問題が起こることもあるでしょう。


手術後に安静状態が続くことで血液の循環が悪くなり、血管内に血栓(血の塊)ができる可能性もあります。血栓が血流に乗って脳や心臓などの血管が詰まると、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な疾患につながるケースもあります。


また、手術の内容によっては禁忌肢位が指定される点も注意が必要です。手術の方法にもよりますが、後方から手術を行うに人工股関節置換術では、脱臼防止のために股関節を深く曲げたり、捻ったりする動きが禁止されることがあります。ただ最近は手術術式の変更により、禁忌となる姿勢がほとんどないケースもあります。


このように、手術を行うメリットがある一方で、注意点もあることをおさえておきましょう。

股関節の手術以外の治療方法

おもに手術の内容を解説してきましたが、それ以外の治療方法には何があるのでしょうか。ここでは手術以外の治療方法についてみていきましょう。

保存療法


保存療法とは、手術以外の方法で症状の維持・改善を目指す治療法です。


股関節の疾患に対する保存療法では、以下の内容が行われています11)


これらの方法で股関節にかかる負担の軽減を図ります。疾患の発症直後のタイミングでは、基本的に保存療法による治療が選択されます。


ただし、保存療法では疾患を根本的に治療できるわけではありません。保存療法で対応できないほど症状が進行している場合、手術を検討する必要があります。

再生医療


再生医療とは、人体が持っている再生力を活用し、損傷した組織を修復する治療法です。人体の炎症をおさえる効果のある物質や、さまざまな組織に変化できる細胞を抽出して患部に注射し、痛みや損傷部位の改善を図ります12)


実際に再生医療は変形性関節症に高い効果を発揮しており、プロスポーツ選手のケガの治療として選択されています13)


これまでは「保存療法による治療を行い、症状が進行したら手術をする」という流れが主流でした。しかし、再生医療の技術が発達したことで、保存療法や手術以外の新しい治療の選択肢として注目されています。

股関節の治療として手術の検討を


股関節の疾患はさまざまで、その多くは最初の段階では保存療法が行われます。しかし、保存療法を行っても症状が悪化する場合は、手術による治療が検討されます。手術を行って根本的な問題を解消できれば、痛みや身体機能が改善し、QOLの向上につながるでしょう。しかし、その分合併症や禁忌肢位などのリスクには注意する必要があります。股関節の疾患を発症した際はこのような点を踏まえつつ、場合によって手術が必要となることを理解しておきましょう。

医師からのコメント
股関節は膝や足首の関節と比べると、手術になることが少ない部位です。その中でも多い手術は人工股関節置換術であり、臼蓋形成術や股関節鏡手術は股関節専門の医師がいない病院では難しいということも少なくありません。
もし若い方で股関節痛で困っているという場合は、股関節専門の医師のいる大きな病院や大学病院への紹介をしてもらってもいいでしょう。
また人工股関節置換術は、手術の方法の変化やインプラントの進化により、長期的な予後が良くなってきています。大腿骨頚部骨折では、以前は人工骨頭置換術が一般的でしたが、最近では若い大腿骨頚部骨折の方に人工股関節置換術などが行われるケースも増えてきました。もちろん手術リスクがないわけではありませんが、どうしても痛みが強い場合は検討してみても良いでしょう。

【参考】
1)慶應義塾大学病院|変形性股関節症

2)高知大学|寛骨臼形成不全症、変形性股関節症

3)「人工股関節症例における寛骨臼形成不全の検討 ー何故?日本に二次性変形性股関節症が多いのかー」樋口 富士男、吉光 一浩、田中 康嗣 他 整形外科と災害外科 72(2)224〜228、2022

4)慶應義塾大学病院|大腿骨頭壊死症

5)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)

6)大分大学医学部整形外科学教室|股関節疾患

7)北里大学|人工股関節置換術

8)東京労災病院|人工関節

9)浜松医科大学|整形外科 股関節外来

10)旭川医科大学|股関節グループ(患者様向け)

11)九州大学|整形外科

12)東京女子医科大学|関節再生医療|人工関節

13)JCHO仙台病院|膝関節・股関節に対する再生医療、PRP・APS 療法について

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