記事監修者:関 勇宇大 先生

腰椎すべり症は背骨の一部が本来あるべき位置からずれてしまう病気で、腰痛や足のしびれ、歩行困難などの症状を引き起こします。この記事では、腰椎すべり症の原因や症状、診断・検査方法、治療法、注意点などを詳しく解説します。予防方法についてもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
腰椎すべり症とは?
腰椎すべり症とは、腰椎の一部がずれて神経を圧迫し、痛みやしびれを引き起こす疾患1)です。腰椎のすべりが起きる原因によって、「腰椎変性すべり症」「腰椎分離すべり症」の2つに分類されます。
ここからは、腰椎すべり症の原因や症状について詳しく解説します。
原因

腰椎変性すべり症の原因ははっきりと解明されていません。しかし、加齢や腰の使い過ぎによる椎間板や関節の変性により、腰椎の安定性の低下が関与している2)と考えられています。
一方、腰椎分離すべり症は、腰椎分離症が原因で起こるものです。中学生頃のスポーツの練習などで、腰を反ったり、回したりすることを繰り返すことで、腰椎の後方部分に亀裂が入り3)、椎体と椎弓が分離して腰椎分離症となります。腰椎分離症を放置すると、徐々にずれが生じて腰椎分離すべり症へ移行します2)。
症状
腰椎すべり症の代表的な症状は以下のとおりです。
- 腰痛
- 下肢の痛み・痺れ
- 歩行困難(間欠性跛行)
腰椎すべり症では、前かがみになると神経の圧迫が解放され、上記の症状が軽減するという特徴があります。
間欠性跛行とは、長時間歩くと脚に痛みや痺れが生じ、少し休むと症状が軽くなるという特徴的な症状4)です。腰部脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症でも見られる症状のため、鑑別が重要5)です。
また、腰椎すべり症とよく似た症状を呈する疾患として、腰椎椎間板ヘルニアが挙げられます。腰椎すべり症と腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアは併発することもあるため、専門医による診断が欠かせません。
腰椎すべり症の診断・検査
腰椎すべり症の診断では、問診や身体所見の確認に加えて、必ず画像検査を行います。
X線(レントゲン)検査では、腰椎のずれの程度を確認します。腰椎分離症や腰椎分離すべり症が疑われる場合は、側面だけでなく、斜めからの撮影も行います3)。
腰椎変性すべり症の場合は、神経の圧迫の程度や脊柱管の狭窄の有無をMRI検査で確認1)します。
腰椎分離すべり症では脊柱管の狭窄がないため、MRI検査でははっきりと判断できません。そのため、診断的に神経根ブロック注射を行い、神経の圧迫されている部位を明らかにすることもあります3)。
腰椎すべり症の治療法
腰椎すべり症では、症状の程度や神経の圧迫具合、日常生活への影響などをもとに、治療法が判断されます。まずは保存療法で症状の改善を目指すことがほとんどですが、効果が得られない場合は手術を検討します。
ここからは、腰椎すべり症の治療について具体的に解説します。
保存療法
消炎鎮痛剤の処方やブロック注射などによる痛みの軽減、コルセットなどを活用した腰への負担軽減などが行われます2)。また、一般的な腰痛予防であるストレッチや、腹筋・背筋の筋力トレーニングなどの理学療法も効果が期待できます3)。
手術療法
保存療法での改善が見られない場合や、日常生活に支障をきたすほどの症状がある場合は、手術が検討されます。
腰椎すべり症に対する代表的な手術は、脊椎固定術です。まず骨を削って神経のとおり道を広げ、自家骨や金属などでずれている骨を固定します2)。内視鏡下でも行えます6)が、術後は固定した部分が安定するまで安静とコルセットなどの装具による保護が必要です2)。
ほかには、変形した椎弓や肥厚した黄色靭帯を取り除く除圧術、椎弓を切除する腰椎椎間板摘出術などがあります。顕微鏡下や内視鏡下での手術も増えており6)、術後のスムーズな回復や入院期間の短縮につながっています。
腰椎すべり症の予防と日常生活における注意点
腰椎すべり症は加齢や過度な負荷、スポーツを原因とする疾患です。しかし、通常の腰痛予防を意識することで、腰椎すべり症の発症や悪化のリスクを抑えることが可能です。ここからは、腰椎への負担を減らすためのポイントをご紹介します。
適度な運動
日常的に軽い運動を取り入れることは、腰椎すべり症だけでなく、さまざまな疾患の予防につながります。運動不足を感じている方は、まずは低負荷の運動から始めて、徐々に強度を上げていきましょう。膝や腰に不安がある場合は、プールでのウォーキングなどもおすすめです。

ストレッチ
腰椎すべり症の予防や症状改善には、お尻や太ももの裏の筋肉を伸ばすストレッチが効果的です。

仰向けの状態で横になり、片膝を胸に引き寄せるように両腕で抱え込むと、お尻や太ももの裏の筋肉を伸ばせます。膝に不安がある方にもおすすめのストレッチです。
生活習慣の見直し
デスクワークや立ち仕事などで、同じ姿勢を長時間継続するのはできるだけ避け、こまめに姿勢を変え、前述したストレッチなどを取り入れましょう。重いものを持つときは、かがんでから持ち上げるようにして、腰への負担を軽減してください。長時間歩くときはハイヒールを避け、クッション性の高い靴を選びましょう7)。
就寝時の姿勢も重要です。仰向けの場合は、腰の反りを軽減できるよう、膝を立てて眠りましょう。膝の下にクッションやたたんだ毛布などを入れると、維持しやすくなります。横向きで眠る場合は、抱き枕の活用がおすすめです。
やってはいけないこと
腰椎すべり症の場合、腰を反らせる動作や腰を無理に捻る動作は危険です。バスケットボールやバレーボール、野球、テニス、ゴルフなど、ジャンプや腰の回旋の多いスポーツは避けましょう7)。
身体を大きくうしろに反らせるヨガなどは、腰椎すべり症の症状を悪化させる場合があります。また、ストレッチは気持ち良いと感じる範囲で行い、無理に伸ばすことは控えましょう2)。
うつぶせは腰が反った形になってしまうため、なるべく横向きか仰向けで寝るようにしてください2)。
腰椎すべり症を正しく理解し、腰の健康を守ろう
腰椎すべり症は、一般的な腰痛予防法で予防・改善が期待できる病気です。日常生活での姿勢や動作に注意し、適度な運動を継続することが大切です。ただし、ほかの病気が隠れている可能性もあるため、気になる腰の症状があるときは自己判断せず早めに整形外科を受診しましょう。
【医師からのコメント】
腰椎すべり症は、加齢や過度な腰部への負荷により、腰椎が前方にずれて神経を圧迫し、腰痛や下肢のしびれ、歩行困難を引き起こす疾患です。とくに、中高年の女性に多く見られます。また、症状が軽度の場合は、運動療法やリハビリテーションを含む保存療法(薬物療法、理学療法、装具療法)で改善が期待できますが、重度の場合や日常生活に支障をきたす場合は、手術療法が検討されます。近年では、低侵襲手術や再生医療など、患者の負担を軽減する治療法も登場しています。
腰椎すべり症は、早期の診断と適切な治療が症状の進行を防ぎ、生活の質を維持するカギとなります。腰や下肢に違和感を感じた場合は、早めに専門医を受診することをおすすめします。適切な診断と治療で、より快適な日常生活を取り戻しましょう。
【参考】
1)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「腰椎変性すべり症」
2)医療法人全医会 あいちせぼね病院 腰痛の専門医による安心アドバイス 腰椎すべり症
3)公益社団法人 日本整形外科学会 症状・病気をしらべる 「腰椎分離症・分離すべり症」
4)岩井グループ 教えて、ドクター! 腰・首・ひざの病気 腰椎すべり症
5)社会福祉法人 恩賜財団済生会 間欠性跛行(かんけつせいはこう)
6)はちや整形外科病院 腰椎すべり症とは?脊柱管狭窄症との関連性や効果的な運動・治療法を解説
7)足立慶友整形外科 腰椎すべり症の生活制限|やってはいけない動作と運動
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