【医師監修】肩関節で行われる人工関節置換術とは?種類や対象となる疾患を解説

疾患による肩の痛みに悩んでいる方のなかには、人工関節置換術を検討している方もいるのではないでしょうか。肩関節の人工関節置換術は、肩の機能を改善して生活の質を向上させるための重要な手術です。人工関節置換術にはさまざまな種類があり、それぞれの手術方法や適応症、注意点が異なります。
この記事では、肩関節に行われる手術の種類や対象となる疾患についてご紹介します。手術の種類や特徴について知ることで、自分にあった治療法を選択するきっかけになるでしょう。

肩関節の人工関節置換術の種類

肩関節の人工関節置換術にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が異なります。ここでは、人工関節置換術の種類について解説します。

人工骨頭置換術

人工骨頭置換術とは、肩関節を作っている上腕骨頭のみを人工物に入れ替える手術です。上腕骨頭を金属球に入れ替えることで、関節の痛みや動きの改善を図ります。この手術は、肩甲骨側の関節の状態が良好な場合や、関節面を温存したい場合に適用となります1)。たとえば、骨折により上腕骨頭のみが大きく損傷しているケースが、人工骨頭置換術の対象といえるでしょう。

全人工関節肩関節置換術

全人工関節肩関節置換術とは、上腕骨頭と肩関節の両方を人工物に入れ替える手術です。関節すべてが人工物となるので、疾患による根本的な原因の改善につながります。この手術は変形性肩関節症や関節リウマチなど、関節の変形が進行している場合に行われます1)
また、インプラントは多様な種類から選択できるので、さまざまな体格の患者さんに対応可能です。手術後のリハビリで肩の痛みが落ち着けば、以前のような日常生活を送れるようになるでしょう​。

リバース型人工肩関節置換術

リバース型人工肩関節置換術とは、全人工肩関節置換術のような上腕骨と肩甲骨の構造を逆にした手術です。つまり、上腕骨側を受け皿にして、肩甲骨側を半球状の金属に入れ替えます。
この手術は、腱板がなくても肩の動きを補助している「三角筋」という筋肉で代償しやすいのが特徴です。腱板とは、肩のまわりについている筋肉の腱の集まりであり、関節の動きをサポートする役割があります。リバース型人工肩関節置換術は、腱板断裂性の関節症や大きな腱板断裂などがおもな対象です1)

肩関節の人工関節置換術の対象となる疾患

肩関節の人工関節置換術の対象となる疾患には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、代表的な疾患についてご紹介します。

変形性肩関節症

変形性肩関節症とは、肩関節の軟骨が徐々にすり減って、変形や痛みが現れる疾患です。肩関節の動きをスムーズにする働きがある軟骨が変性すると、肩の痛みや運動障害が現れます。おもな症状は以下があげられます。 

痛みは肩の動きにともなって悪化し、夜間に強くなることが多いです。変形性肩関節症の原因には一次性と二次性の2種類があります2)。一次性は明確な原因がわかっていないもので、加齢や筋力低下などの要因が重なって起こると考えられています。一方で、二次性は腱板断裂や関節リウマチなどの疾患が原因で発症する種類です。

関節リウマチ

関節リウマチとは、関節が炎症を起こして破壊や変形を引き起こす自己免疫疾患です。とくに30~50歳代の女性に多く発症しやすく、全身の関節に症状が現れるのが特徴です3)。初期症状としては以下があげられます。

これらの症状が進行すると、さらに日常生活に支障をきたすようになります。関節リウマチの原因は、はっきりとわかっているわけではありません。しかし、遺伝的要因や環境要因、感染症などが関与していると考えられています4)

腱板断裂

腱板断裂とは、肩関節の動きや安定性をサポートしている筋肉の腱が損傷し、断裂した状態のことです。腱板とは、以下の4つの筋腱を指します。

腱板が断裂することで、肩の痛みや運動制限を引き起こし、日常生活に大きな支障をきたします。腱板断裂が進行すると、肩の機能がさらに低下し、完全に腕を上げられなくなることもあるでしょう。腱板断裂は40歳以降からみられるようになり、おもな原因は、加齢による腱の劣化や、スポーツによる過度な肩の使用があげられます5)
また事故や転倒などの外傷も腱板断裂の原因の1つです。肩の痛みが現れた場合には早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。

上腕骨骨折

上腕骨の骨折は高齢者に多くみられ、転倒や事故などがおもな原因です。上腕骨の骨折にはいくつかの種類がありますが、そのなかでも代表的なのが上腕骨近位端骨折です。上腕骨近位端骨折は上腕骨頭付近で起こる骨折です。
軽度の骨折では痛みや腫れがおもな症状ですが、重度の骨折になると神経や血管が圧迫されて障害が現れることもあります6)。いずれにせよ、骨折が生じた場合には迅速な診断と適切な治療が必要です。

肩関節の人工関節置換術の注意点

肩関節の人工関節置換術を受ける際には、いくつかの重要な注意点があります。まず、人工関節置換術後は脱臼に十分に気をつける必要があります。肩関節が人工物に入れ替える関係上、特定の動きで関節が外れるリスクを知っておかなければいけません。脱臼リスクを避けるためには、肩を後方に上げすぎたり、外側に捻ったりする動作は避けることが重要です。また、重いものを持ち上げることも控えましょう7)
次に、手術による感染症のリスクにも注意が必要です。手術部位の清潔を保ち、医師の指示に従って適切なケアを行うことが大切です。これらのリスクを予防するには、定期的な診察を受け、異常があればすぐに医師に相談することが望ましいです。

肩関節の人工関節置換術後の流れ

人工肩関節置換術後の流れは、手術内容や回復度合いによって異なります。手術直後は、三角巾とバンドで腕を固定して肩の安静を保ち、術後の早期回復を促します。手術翌日にはリハビリが開始され、最初は肘や手を動かす軽い運動からはじめるのが基本です。その後リハビリを継続して、術後1〜3週間後になったら三角巾を外して、自身の力で肩を動かすようにします。
変形性肩関節症の手術の場合、入院期間の大まかな目安は3〜4週間程度です。退院後も外来でのリハビリは継続され、数か月間かけて日常生活に支障が出ないレベルまで目指します8)

肩関節の人工関節置換術以外の治療法

肩関節の手術以外には、どのような治療法が選択されるのでしょうか。ここでは、その治療法について詳しく解説します。

保存療法

保存療法とは、手術を行わないで症状の改善を目指す治療法です。具体的には、以下のような治療が行われます。

これらの治療を組み合わせて行うことで、炎症や痛みの緩和を図ります。肩関節疾患の発症初期は、基本的にこの保存療法が選択されることが多いでしょう2)。保存療法は手術に比べてリスクが少ないメリットがある一方で、根本的な改善が難しいという面があります。そのため、症状が重度の場合や保存療法で改善がみられない場合は、手術が検討されます。

再生医療

再生医療とは、人体が持っている力を活用して、損傷した組織や細胞を再生させる治療法です。再生医療は、肩関節の治療においても新しい選択肢として注目されています。血液内に含まれている血小板を活用した「PRP(多血小板血漿)療法」や、幹細胞を使用した治療などが代表的です。血小板には炎症をおさえる働きが、幹細胞にはさまざまな細胞に変化する働きがあるとされており、それぞれの作用によって組織の修復が期待できます。
再生医療は副作用が少ない一方で、すべての疾患に適応となるわけではありません9)。そのため、医師とよく相談して治療を進めていく必要があります。

肩関節の痛みが続く場合は人工関節置換術の検討を

肩関節の疾患には変形性肩関節症や腱板断裂などがあり、長期間続く場合は日常生活に大きな支障をきたすことがあります。このような場合、人工関節置換術を検討することが1つの解決策といえるでしょう。人工関節置換術には、人工骨頭置換術、全人工肩関節置換術、リバース型人工肩関節置換術の3つの主要な手術方法があります。それぞれの手術は特徴や適応が異なるので、症状にあわせた内容を選択することが大切です。肩関節の痛みに悩まされている方は、ぜひ医療機関へ受診して、適切な治療方法を見つけましょう。

医師からのコメント

ここでは人工肩関節置換術の合併症について説明いたします。いずれも頻度は少ないため、危険性が高い手術ではありませんが、十分理解した上で手術を検討することをおすすめします。

1. 感染:1%程度と頻度は低いですが、感染が起こる可能性があります。手術後数日で起こるものから数ヶ月たって起こるものまで様々です。抗生物質の点滴で治療をしますが、改善がなければ人工関節を抜去することがあります。手術して2-3週間は傷口を清潔に保ようにしましょう。

2. 血栓症:他の手術と同様に手術後に足に血栓が形成される可能性があります。頻度は非常に少ないですが、肺塞栓症を起こして命に関わることがあります。

3. 人工関節の破損や脱臼:まれな合併症ですが、再手術などが必要になることがあります。手術後のリハビリ時に運動の制限をよく確認しておきましょう。

4. 神経障害:手術中に周囲の神経が損傷する可能性があります。これにより、感覚や運動麻痺が生じることがあります。

【参考】
1)聖路加国際病院|人工肩関節置換術とは
2)慶應義塾大学病院|変形性肩関節症
3)慶應義塾大学病院|関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)
4)日本整形外科学会|関節リウマチ
5)霞ヶ浦医療センター|腱板断裂(けんばんだんれつ)
6)霞ヶ浦医療センター|上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)
7)「広範囲腱板断裂に対してリバース型人工肩関節置換術と肩甲下筋移行術および L'Episcopo 変法による広背筋移行術の同時施行を実施した症例 —術後 8 ヵ月までの経過—」餅 脩佑、赤澤 祐介ら 理学療法とちぎ Vol.8 No.1 15–20
8)中国労災病院|人工肩関節置換術
9)東京女子医科大学|関節再生医療

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