The Authority Match

信頼できる医師が心の支えに 元プロ野球選手・山崎憲晴が語る前十字靭帯断裂がプロ野球人生における転機

信頼できる医師が心の支えに 元プロ野球選手・山崎憲晴が語る前十字靭帯断裂がプロ野球人生における転機

インタビュイー:元プロ野球選手 山崎 憲晴さん

監修者:スポーツ整形外科医 山崎 哲也先生(YSAスポーツと医科学のクリニック横浜関内 院長)

整形外科・再生医療の総合情報サイト「ひざ関節の痛み解消ナビ」がお届けするスペシャル対談企画『The Authority Match』。本シリーズは、ケガやリハビリを乗り越えた経験を持つ著名なアスリートと整形外科医の対談を通じ、スポーツ障害との向き合い方や最新治療の可能性を紐解くコンテンツです。

今回のゲストは、日本のプロ野球チームである横浜DeNAベイスターズや阪神タイガースで活躍し、現在は阪神タイガースでコーチを務める山崎憲晴さん。対談相手に横浜DeNAベイスターズのチームドクターを長年務めた経験があり、山崎さんの膝の手術に執刀医として携わったY&S スポーツ・医科学クリニック院長の山崎哲也先生をお迎えしました。

2016年春季キャンプ中、山崎さんが左膝前十字靭帯完全断裂という大ケガに見舞われてから、わずか半年で実戦に復帰するまでの裏側、主治医の山崎先生と育んだ信頼関係に加えて、最新の再生医療に対する医学的知見までをお届けします。

練習中に負った大ケガと手術を決断した瞬間

山崎さん:山崎先生、お久しぶりです! 今日はよろしくお願いします。

山崎先生:よろしくお願いします! こうして面と向かってじっくり話すのは久しぶりですね。お互いの姓が「山崎」同士ですし、現役時代からよく知っている間柄でもあるので、今日は何でも聞いてください。

山崎さん:ありがとうございます。僕の膝は、まさに執刀医である山崎先生に救っていただいたようなものです。先生のおかげで無事に実践に復帰でき、その後も僕のプロ野球人生をずっと支え続けていただきました。だからこそ、今日こうして対談させていただけるのは本当に感慨深いです。

山崎先生:インタビュー中、いつもの呼び方である「ノリ」で進めさせてくださいね。 ノリとの縁は、横浜DeNAベイスターズにいた2016年に膝の大ケガをしてから本格的に始まったんですよね。当時は私がチームドクターで、ノリが選手という関係でした。

山崎さん:膝の大ケガを負ったのは、その2016年の春季宜野湾キャンプ中でしたね。忘れもしない、2月6日です。あの日、雨が降っていて室内練習場でランダムプレーの練習をしていた中で、ランナーと接触しそうになり、急ブレーキをかけようとしたところ、左膝を突っ張った状態で1回転してしまったんです。そのとき、痛みが走るというよりは、膝の奥で「ぬるっ」と関節が大きくズレる感覚がありました。

山崎先生:前十字靭帯が断裂する瞬間というのは、太ももの骨とすねの骨の位置関係が、一瞬で外れかける状態、つまり亜脱臼になるんです。そのズレた瞬間の感覚が、「ぬるっ」としたというのは誇張ではなくリアルで適切な表現といえます。

山崎さん:当初5分くらい休めば立てるかなと思ったんですが、膝に力が入らなくてまったく立てませんでした。何が起きたか分からず、恐怖を覚えました。すぐに現地の病院で検査を受けたんですが、そこで担当医から「前十字靭帯が切れてるね。1年くらいダメだね」とサラッと言われてしまって……。「これから1年が始まるのに、そんな言い方ないだろ!」と腹が立ったのと同時に激しいショックを受けて、自分に起きた現実を受け入れられませんでした。

山崎先生:復帰までに長期間を要する診断になった場合、アスリートにそれを受け止めてもらえるよう伝えるためには非常に繊細になる必要があります。チームドクターとしてノリの報告を受け、すぐに横浜へ戻ってきてもらい、診察と精密検査を行いました。MRIIでの画像診断で前十字靭帯の完全断裂が確認できました。

山崎さん:先生から詳しい説明を受けたとき、僕はまだ「なんとか手術をせずに保存療法を受け、3〜4ヶ月で復帰できないか」と甘い期待を抱いていたんです。それは、「試合に出場しなければ、このチームに貢献できないかもしれない」という焦りがあったんでしょうね。

一方で、人工芝では急ストップやカッティング動作(急な方向転換)といった内野手特有の動きが膝に大きな負担になることを分かっていたため、前十字靭帯の完全断裂と聞いたとき、内野手として致命的なケガだと直感しました。

山崎先生:そうなんです。前十字靭帯は、膝の前後方向、あるいは捻ったりする動作での不安定性を防止する要(かなめ)となります。この靭帯が切れると、雨の日に革靴でつるつるした床を歩くと膝がズレそうな感覚を感じて怖くなります。ましてやスパイクを履きながら激しいストップ&ゴーを繰り返すプロ野球選手が、前十字靭帯が切れた状態でプレーするのは不可能です。僕から「これからも守備というノリの強みを発揮していくなら、 手術は絶対マストだ」とハッキリと伝えたのを覚えています。

山崎さん:先生からその言葉を受けて、腹が決まりました。妻とも話をしたうえで、「先生がそこまで言うなら、手術してもう一度這い上がろう」と手術を決断しました。

患者と執刀医の信頼関係こそ、最大の薬

山崎先生:ノリは「左膝前十字靭帯の完全断裂」、そして「内側側副靭帯の損傷(部分断裂)」を併発していました。幸いにも内側側副靭帯はダメージが部分的だったため、主たる手術は前十字靭帯の再建術にとどまりました。前十字靭帯の再建術自体は整形外科において確立されている中で、アスリートにとって真の勝負どころは「術後のリハビリテーションの質」にあります。

山崎さん:負傷日から約20日後の2月25日、山崎先生の執刀で手術を受けました。忘れられないのが、手術当日の麻酔が効き始める直前、山崎先生が僕の顔を見て「俺がやるから大丈夫」と言ってくれたことです。全身麻酔も初めてで恐怖心で溢れていたんですが、その一言で救われて、「この人にすべてを預けよう」と腹を括ることができました。

山崎先生:医療においては、患者さまと担当医の間に「信頼関係」を築くことが最も重要になります。だからこそ僕も、彼に対して「ノリの膝は良くなるから大丈夫だ」という確信を持って接していました。

山崎さん:手術直後のリハビリでは、最初は膝を伸ばす可動域訓練が本当に痛くて地獄でした。でも、僕を担当してくれた理学療法士さんから「山崎先生の手術は、メスを入れる手際がすごく良いから内出血が最小限に抑えられている。だからリハビリの進みが圧倒的に早いんだよ」と聞いて感動しましたね。僕の膝の中にはまだボルトが入っていますが、今でも大切にしている勲章です。

山崎先生:リハビリのプロセスは、「院内での初期リハビリ」「退院後の可動域・筋力回復」「スポーツ現場への復帰に向けた専門トレーニング」という3段階にわかれます。単に手術をして終わりではなく、医師である僕がコーディネーターとなって理学療法士やチームのトレーナーと密に連携を取り、復帰までのロードマップを描くことが僕の使命でした。

山崎さん:リハビリ中、山崎先生はダメなものは「ダメ」と明確に示しつつも、僕の性格を理解して過度な制限をかけずに「ここまではやっていいぞ」と取り組ませてくれたんです。それが精神的なストレス軽減にすごくつながりました。

そして必死に大腿四頭筋の筋力を戻した結果、2月25日の手術日からわずか半年後の9月2日に、ファームの公式戦で復帰することができたんです!

山崎先生:半年での実戦復帰は、前十字靭帯断裂としては異例のスピードです。野球がサッカーやラグビーのように過度なコンタクトがない競技だったという側面もありますが、何よりノリ自身のたゆまぬ努力と、ポジティブなメンタルがあったからこそ成し遂げられたと思います。

山崎さん:本当に山崎先生からのサポートのおかげです! その後、阪神タイガースへの移籍も経験し、プロ野球選手として現役生活をまっとうすることができました。あのときの大ケガは、僕のプロ野球人生における大きなターニングポイントになったなと感じています。

再生医療がもたらす「復帰への希望」

山崎さん:最近、スポーツ整形の分野では「再生医療」が注目されていますよね。山崎先生、再生医療って何ですか?

山崎先生:現在、整形外科で行われている代表的な再生医療が「PRP(血小板血漿)療法」で、患者さまから血液を採血し、その中に含まれる「血小板血漿」を特殊な装置で濃縮したうえで患部に注入するものです。PRPには、血小板以外に成長因子なども含まれており、痛みの抑制や組織修復の促進が期待できるといわれています。

山崎さん:なるほど。もし左膝前十字靭帯の断裂に再生医療を適用していたら、手術しなくて済んだんでしょうか?

山崎先生:前十字靭帯の完全断裂に対して、PRP療法などの再生医療を受けても、一度切れてしまった靭帯が再びつながるような効果は、残念ながら期待できません。

なぜなら、前十字靭帯は関節包の中の「関節液」に満たされた環境にあるため、PRPを注入してもその成分が患部にとどまらず散らばってしまうからなんです。

整形外科専門医は再生医療が決して万能薬ではなく、何ができて何ができないのかをシビアに見極め、患者さまに正確に伝える義務があります。

山崎さん:自分の血液を使う安全な治療とはいえ、適応を見極めることが大事なんですね。

山崎先生:ただし、再生医療にはすばらしい可能性があります。例えば、肘の靭帯損傷や、慢性的なアキレス腱炎など、シニア層に多い初期から中等レベルの「変形性膝関節症」に対して、臨床上、PRP療法は痛みを抑えたり、組織修復を促したりする効果が実証されています。

現在、僕のクリニックでもPRP療法を積極的に提案しておりますが、手術を回避したいアスリートや、健康寿命を延ばしたい一般の患者さまにとって、保存療法と手術の間を埋める「第三の選択肢」になっています。今後、再生医療に関するエビデンスが蓄積されることで、さらに多くの人々を救う治療法になっていくはずです。

膝の痛みに悩むすべての人へメッセージ

山崎先生:膝の痛みやケガに苦しみ、日常生活に不安を抱えている方がいたら、ノリはどんなメッセージを送りますか?

山崎さん:僕自身、膝の靭帯を断裂した瞬間は「選手生命が終わった」と絶望しました。しかし、山崎先生という整形外科専門医に出会い、適切な手術とリハビリを受けられたことで実践に復帰し、阪神タイガースに移籍しても現役を続けられたうえ、今こうしてコーチとして指導する道が開けました。あのケガは僕の野球人生を縮めたのではなく、人として成長させてくれた出来事だったと断言できます。プロ野球の現場で指導する立場となった今も、子どもや選手にケガを乗り越えた姿を見せることで、希望を与えられるようにしています。

アスリートも一般の方も、膝に痛みがあるなら我慢せず、信頼できる整形外科専門医を頼ってください。適切な治療の選択と諦めない心があれば、膝の痛みもきっと乗り越えられるでしょう!

山崎先生:素晴らしいメッセージですね。膝や関節の痛みにお悩みの患者さまの多くは、「主治医任せ」になって不安を一人で抱え込みがちです。しかし、今は患者さま自身が情報を集めながら、複数の治療選択肢を分かりやすく示してくれる整形外科専門医を自ら選ぶ時代です。

医療の根幹にあるのは、医師と患者の間に築かれる「信頼関係」す。僕たち整形外科専門医は、あなたの「もう一度歩きたい、走りたい、プレーしたい」という想いに全力で寄り添い、最適なロードマップを描きますので、諦めずに一緒に前へ進んでいきましょう!

アスリートと医師のスペシャル対談 The Authority Match

山崎 憲晴さん

元プロ野球選手

山崎 憲晴さん

静岡県富士市出身。埼玉栄高校、横浜商科大学を経て、2008年ドラフト3位で横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)に入団。高い守備力とユーティリティ性を武器に活躍。2016年、春季キャンプ中に左膝前十字靭帯断裂、内側側副靭帯損傷の大ケガを負うも、手術とリハビリを経て2017年に1軍復帰を果たす。現在、阪神タイガースのファーム内野守備走塁コーチを務め、選手の育成にあたっている。
山崎 哲也医師(YSAスポーツと医科学のクリニック横浜関内 院長)

スポーツ整形外科医

山崎 哲也医師(YSAスポーツと医科学のクリニック横浜関内 院長)

専門はスポーツ整形外科、膝・肩・肘関節外科、関節鏡下手術、再生医療。横浜南共済病院 スポーツ整形外科部長、横浜DeNAベイスターズの元チームドクターなどを歴任。プロ野球選手をはじめとするトップアスリートの手術実績が豊富。アスリートの競技復帰から膝痛に悩む一般患者さまの生活の質(QOL)向上まで、一人ひとりに寄り添った医療を提供している。
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