医師インタビュー

いつまでも自分の足で歩けるように 健康寿命を伸ばすために整形外科医として治療へ抱く思いとは

      

インタビューした医師・専門家

プロフィール
市ケ谷整形外科
院長 市ケ谷 憲(いちがたに あきら)
2013年に久留米大学医学部を卒業し、医師国家資格を取得。アルメイダ病院麻酔科、九州大学整形外科を経て、大分赤十字病院、別府医療センター、千早病院、おんが病院など複数の医療機関で経験を積んだ後、市ケ谷整形外科で開業医として勤務。専門は運動器疾患とリハビリテーションで、麻酔科医としての経験も活かしながら患者様の痛みの改善を目指した治療を行っている。また、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、スポーツ医、リウマチ医、健康スポーツ医、日本抗加齢医学会専門医など、複数の資格を持つ。近年は、地域医療の充実と医療連携にも力を入れており、地域の健康寿命を伸ばすために取り組んでいる。

高齢化が進む中で変形性膝関節症のような膝の痛みを抱えたりする患者様も増えている。加齢を理由に痛みと向き合うのを諦めてしまう方もいる中で、地域で支持される整形外科クリニックである市ケ谷整形外科では、どのように患者様と向き合っているのか。

院長である市ケ谷憲先生が大事にしている健康寿命に対する思いや患者様への向き合い方、治療への思いとは…。今回はオンラインでインタビューさせていただきました。

先生からのメッセージ

早期発見・治療のために「何か違和感がある、いつもと違う」など気になる症状があった時は、お気軽にご相談ください。

多くの患者様や地域の皆様のお役に立ちたいという思いで家業を継ぐ

――まずは先生が医者を目指した理由、麻酔科医から整形外科医になった理由などをお伺いできればと思います。

もともと私の父が、大分県で39年ほど開業医として整形外科医をやっておりました。その背中を見て育ってきたのもあり、後々に家業を継いで整形外科医になろうという思いから医師を目指しました。

麻酔科医として経験を積んでから整形外科医になった理由についてお話します。

医師免許を取得して、初期研修で働いた大分市医師会立アルメイダ病院の麻酔科部長が、たまたまペインクリニックの診療をされている方で、その先生から「整形外科と麻酔科は、患者様の痛みに対して治療を行うという点は非常に似ている部分があるため、整形外科医として開業する前に麻酔科医としてペインクリニックで勉強をしておくのは良い経験になる」という話がありました。 私自身も納得する部分があり、その先生のもとで2年間麻酔科医として全身麻酔をかける傍ら、神経ブロックなどの整形外科でも応用が利く疼痛コントロールの方法を学びました。

――その後2021年9月に市ケ谷整形外科を継がれたとのことですが、その時の引き継いだ時の思いや目標、ビジョンなどがあればご教示ください。

勤務医であっても開業医であっても、困っている患者様の相談にのり、治療を行うということに変わりはないので、「今まで市ケ谷整形外科を支えてくださった地域の方に少しでも喜んでいただければ、お役に立てれば」という気持ちで整形外科医院を運営していこうと思いました。

今は、より多くの患者様の期待に応えることができるように、医師として患者様の悩みに寄り添うだけではなく、スタッフの接遇にも力を入れて地域に信頼される病院にすることを目標にしています。

――30年以上お父様が働かれていた病院を継ぐということで、プレッシャーは感じましたか?

すこし感じました。私は大分の整形外科開業医の中では最年少なので、『はじめてお会いする患者様が、若いお医者さんに診てもらうことに対してどう感じるだろう』という不安もありました。ただ、皆様のお役に立ちたいという私の気持ちが伝わったのか、今では多くの方にご来院いただけるようになり、すごく感謝しております。

3つの段階すべての予防地域を支える医師として幅広い悩みを持つ患者様へ寄り添う医療を提供する

――市ケ谷整形外科へ来院される患者様に傾向や特徴はありますでしょうか?

整形外科なので、首・腰・肩・膝など体の痛みでご相談に来られる方が多いです。また、大分県という全国的には田舎な環境だからか、体の痛み以外にもさまざまな悩みを持つ方がご来院されます。

たとえば、一般的に整形外科では診ることが少ない巻き爪、水虫など皮膚科の病気の方もまぎれていることもあり、そんな時は、皮膚科医である私の妻とともに診療にあたっております。

――患者様への接し方で先生が意識されていることはありますか。

体の痛みで悩んでいる方は、気持ちも塞ぎ込んでしまっていたり、落ち込んでいたりする方が多いです。そのような方の不安な気持ちに少しでも寄り添えるように、常に明るい雰囲気で患者様に接するように心がけています。

――日々多くの患者様と関わっているかと思いますが、先生の中で印象に残っている患者様のエピソードがあれば教えていただきたいです。

変形性膝関節症の患者様で、大きな病院であれば一般的に手術をするような症状の重い方がいました。

その患者様は手術を希望されていなかったため、ヒアルロン酸の関節内注射をしたり、理学療法士とリハビリを実施したり、膝サポーターや足底板(そくていばん)といった装具での保存加療を行いました。その患者様の「絶対良くなりたい」という強い気持ちもあり、積極的に治療に参加していただけたおかげで、膝の痛みも軽くなり、最終的には手術を行わなくてもいいくらいまで症状が改善されました。

患者様から感謝の言葉も頂けて、開業医として整形外科医をやっていてよかったと感じた場面でもあり、印象に残っています。

――お伺いしたエピソードも含め、真摯に患者様と向き合われている先生の治療への姿勢から、Googleの口コミ評価が非常に高くなっております。この点はどのように捉えておりますか?またその要因は何だと思いますか?

多くの患者様に満足していただけているということであり、自分の診療スタイルに自信を持つことができます。好評の要因としては、患者様の話をしっかりと聞き、一方的に治療を押し付けず、患者様の希望を聞いた上で一緒に治療法を決めていくことにあるのではないかと思います。

また、ヒアルロン酸関節内注射では、一般的に使用する針より細い針を使用して、痛みを少なくしていることも評判がいいです。

保存的な治療を中心に行いながら患者様へ治療の選択肢を提供する

――市ケ谷整形外科で主に行っている治療方法や、理学療法士など他職種との連携などについて詳しくお伺いできればと思います。

変形性膝関節症に対しては、肥満の方への減量指導、理学療法士との四頭筋訓練などのリハビリ、ヒアルロン酸関節内注射、膝に負担をかけない歩き方指導や足底板・膝サポーターの使用などの保存療法を行っております。痛みが強い人であれば、鎮痛薬の内服や外用も行っております。

診療情報は電子カルテに詳細に記載して、医師と理学療法士が共有しております。リハビリを進める中で新たに判明したことがあれば、理学療法士から医師にフィードバックしてもらい治療に活かしています。世間話からその方の生活習慣や趣味などを把握し、リハビリのプランに反映させることもあります。

――手術が必要な方に対しては手術が可能な大きな病院などへ連携されるのでしょうか。

はい、もちろんです。なかなか保存療法では痛みがとれなかったり、日常生活に支障が出ている患者様の場合は、ご本人と相談した上で手術を行っている病院に紹介させていただいております。

――保存的療法か手術かといった、先生が患者様に治療方法を勧める際のポイントや選択するポイントなどを教えてください。

まず、診察の時に患者様の症状や日常生活で困っていることを確認します。その上で、患者様がどうしたいかという気持ちを一番大事にしています。

私達医師が治療法を一方的に決めつけるのではなくて、患者様自身が決めることができるように、整形外科医として、「こんな治療法もあるよ」などという形で、様々な治療法を提案することが大事だと思っています。

いつまでも健康に自分の足で動けるようにするために日常生活でできることを取り組んでほしい

――以前のヒアリングで「原因がよくわからないと治療に積極的になれない」患者様がいると伺っておりましたが、治療やリハビリを行う上で、患者様が医師や病気に対してどう向き合うといいかお伺いしたいです。

まず、どんな病気であっても、決して治療を医師任せにせずに、患者様が自分の患っている病気に対して理解を深めることは非常に大事だと考えています。

日常生活を送っていく中で、徐々に膝の軟骨がすり減って生じる変形性膝関節症も同様です。なぜ軟骨がすり減っているのか、今後どうしたらすり減らなくなるのかという点を医師と話しながら患者様自身が理解し、自分でも日常生活を変えてみるなど積極的に治療に取り組むことが大事だと思います。

――習慣になっているものが積み重なっている方も多いかと思いますので、患者様ご自身でも生活改善などに取り組む必要があるということでしょうか。

そうですね。私の外来には「他の病院で良くならなかったから来ました」という方もご来院されます。話を伺うと前の病院では「膝の軟骨がすり減っている」「年だからしょうがない」と言われ、痛みに対して治療は行われたものの、今後どうしたら良いかという点までは、あまり詳しく聞けていない方もおられました。

当院では、これからの治療に繋げていけるように、今後どのように日常生活に気をつければ良いかということもお伝えしております。

――多くの患者様がいつまでも自分の足で動けるように、日ごろから日常生活で注意しておくべきことを教えてください。

例えば、変形性膝関節症の場合は、膝に負担がかかるような正座を避けて椅子に座るとか、BMI25以上の肥満があれば減量するとか、痛いのを無理してジョギングしないとか、ベッドや洋式トイレを使うなどですね。自分自身の生活を意識して変えてみるのも大事だと思います。そして、今までしている正座やジョギングなどの膝に負担がかかる生活習慣が実は変形性膝関節症進行の原因となっていたということを患者様に理解していただくように説明することも医師の重要な役割であると思っています。

肥満患者様の場合は、食事改善をして減量に取り組む必要があります。低カロリーで腹持ちがいいキノコ類を食べたり、1日の食事のカロリー計算をしてカロリー過多にならないように気をつけてみたり、血糖値が緩やかに上昇する低GI食品中心の食生活をすることは良いですね。

あと2023年の変形性膝関節症のガイドラインに運動療法は最も推奨されるものという記載があります。運動療法は大事ですが、先ほど申し上げたように、膝が痛いのに無理して長時間のジョギングやウォーキングなど膝に負担がかかる運動をするのではなく、浮力によって膝にかかる負担を減らす水中歩行や水泳などの水中運動、サドルで上半身の体重を支えることで膝関節への負担を軽くできるエアロバイクなどは続けやすい運動でおすすめです。

――もし他に日常に取り入れやすいリハビリ方法やマッサージなどがあればお伺いしたいです。

実はガイドラインにおいても、どのような運動が最適かという点についてはエビデンスが少なく明確なものはありません。ただ、膝周囲の筋肉を鍛えて膝関節のぐらつきを減らし、膝にかかる負担を軽減するという意味では、大腿四頭筋訓練が基本的で効果が期待できます。

座った状態でできる大腿四頭筋訓練の仕方をお伝えいたします。

まず、椅子に浅く座り、背筋を伸ばします。その状態で、足のつま先を上げるようにして膝関節を伸ばします。足首を反らし太ももを持ち上げますが、足首は股関節よりも少し高いくらいがいいです。その状態で10秒キープします。この時に、ふとももの前を触ってみると大腿四頭筋がかたく張っていて鍛えられていることがわかります。これを10セットずつ左右交互に行うのがおすすめです。 
※仰向けでの大腿四頭筋訓練の方法はこちら(市ケ谷整形外科HP

――ありがとうございます。最後に患者様へお伝えしたいメッセージなどがあれば、お願いします。

介護などを受けずに健康で自立した生活を送ることができる、いわゆる健康寿命を延ばすためには、いつまでも自分自身の足で歩けることが大事だと考えています。

膝の痛みも「高齢だからどうしようもない」と諦めたり、我慢したりせずに、一度整形外科へ相談して自分の膝の状態を見てもらうことが、膝の健康を守るだけではなく、健康寿命を延ばすことにも繋がると思っています。

           

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