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【最新データ】整形外科開業医の平均年収はいくら?儲かる医院の特徴と注意点

勤務医として安定した収入を得ることも選択肢のひとつですが、「自分の裁量で診療を行いたい」「より高い収入を得たい」と考え、開業を目指す医師も少なくありません。
整形外科クリニックの開業においては、「整形外科は初期投資が大きく、思ったほど儲からない」「保険診療だけでは、収益力を高めにくい」といった声もよく聞かれます。では、実際のところ、整形外科開業医の年収はどの程度なのでしょうか。
本記事では、最新のデータや複数の調査結果をもとに、整形外科開業医の平均年収や、成功と失敗を分ける要因などについて詳しく解説します。これから整形外科クリニックの開業を検討している先生はもちろん、すでにクリニックを経営されている先生にも参考になる情報をお届けします。
目次
この記事で分かること
・整形外科開業医の平均年収と診療科別データ(最新統計)
・勤務医との収入差とその理由
・「儲からない」と言われる経営構造上の課題
・収益を左右する主要因(立地・自由診療・設備投資など)
・高収益クリニックの実例と失敗事例
・開業前に押さえておくべき経営・投資・集患のチェックポイント
【最新データでみる実態】整形外科開業医の年収相場

整形外科開業医の「平均年収」データ
令和3年に行った医療経済実態調査の統計データによると、整形外科の開業医の平均年収は約2,891万円でした。この数字は、売上(医業収益)から人件費、家賃、減価償却費などの経費(医業費用)を差し引いた値です。ただし、地域特性をはじめ、クリニックの規模、設備投資額、スタッフ数などにより、収入は大きく変動します。
各診療科目別の損益差額(入院診療収益なし)
| 個人診療所 (単位:千円) | |
| 内科 | 20,554 |
| 小児科 | 21,921 |
| 精神科 | 54,213 |
| 外科 | 16,558 |
| 整形外科 | 28,919 |
| 産婦人科 | 20,117 |
| 眼科 | 31,973 |
| 耳鼻咽喉科 | 28,825 |
| 皮膚科 | 33,078 |
| その他 | 27,105 |
| 全体 | 25,279 |
内科や外科、小児科といった診療科を含む全体平均年収が約2,527万円となっていますので、平均よりも若干高い傾向にあります。また、クリニックの経営形態(個人事業か医療法人か)によっても手取りは異なります。法人化して役員報酬を設定すれば、社会保険料の負担を分散し、実質的な可処分所得を増やすことも可能です。
【参照データ】
中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 -令和3年実施-
「儲からない」と言われる理由
整形外科は高収益な診療科に見られがちですが、「儲からない」と感じる開業医も少なくありません。その要因は、初期投資の大きさと固定費の高さにあります。CR装置や電子カルテ、リハビリ機器などの設備費が数千万円単位に上るケースも多く、開業費は5,000万〜8,000万円が相場です。
設備費の相場
| CR装置 | 300万〜600万円程度 |
| PACS装置 | オンプレミス型:数百万円程度 クラウド型:初期費用0のケースあり |
| リハビリ機器一式 | 1,100万〜1,500万円程度 |
| 電子カルテ | 200万〜500万円程度 |
さらに、リハビリテーション科を備える場合、理学療法士や作業療法士といった専門スタッフを複数名在籍させるため、人件費の負担も大きくなります。その結果、診療報酬単価が一定でも、利益率は10〜15%程度にとどまるケースが一般的です。
整形外科クリニックの収益構造を理解する
主な収益源は「外来診療」と「リハビリ」
整形外科クリニックの主な収益源は、外来診療とリハビリテーションです。これらは保険診療になるため、レセプト(診療報酬明細書)にもとづいた診療報酬を受け取ることになります。
医院が運動器リハビリテーション料(Ⅰ〜Ⅲ)の施設基準を満たしている場合、1単位当たりの保険点数が高くなるため、リハビリテーションの利用者が増えるほど、収益を上げられるでしょう。
そのほかにも、再生医療や注射療法、自費リハビリなどの自由診療を行っていれば、収益力を高められます。自由診療の場合、各医院で診療費を決められることから、利益を得られやすくなるためです。
再生医療が注目される背景
再生医療は変形性関節症などの進行を遅らせる、あるいは止めることが期待されていることから、整形外科領域において注目を集めています。その要因として、次の5つが挙げられます。
①患者ニーズの高まり
高齢化社会の進展により、関節疾患や軟部組織の損傷が増加しています。これらの疾患に対する非外科的治療法として、再生医療が注目されています。
②医療技術の進歩
iPS細胞や幹細胞技術、3Dプリンター技術の進歩により、細胞や組織の再生、疾患の根本的治療、さらにはオーダーメイド医療の実現を目指して急速に発展しています。従来の治療法では諦めざるを得なかった疾患や損傷に対しても、再生医療が有効な選択肢として勧められるケースが増えています。
③保険適用の拡大
再生医療は多くのケースで保険適用外ですが、一部の疾患に対しては保険が適用されます。 自由診療で高額な費用という認識が強いため、選択しない患者も少なくありませんが、保険適用によって経済的負担が軽減されることを知れば治療に前向きになることが期待できます。
④クリニックの収益源としての可能性
再生医療は自由診療で提供されることが多く、高い収益性が期待されます。これにより、整形外科クリニックの収益構造の多様化が進んでいます。
⑤医師の専門性の向上
先進的な技術である再生医療の導入により、整形外科医師の専門性が向上します。競合クリニックとの差別化を図り、競争優位性を確保することにもつながります。
再生医療の導入は、整形外科クリニックの収益構造を多様化し、患者への新たな治療選択肢を提供するものとして、今後さらに注目される分野と言えるでしょう。
コストの大半は「人件費」と「設備費」
整形外科クリニックの経費は、人件費と設備費が大きな割合を占めます。医療経済実態調査によると、整形外科クリニックの人件費は、経費の25〜35%程度でした。
また、整形外科クリニックにMRIやCTなどの医療機器を導入した場合、その維持費、保守契約料に年間数百万円が必要になることがあります。リハビリ用の治療機器の中には、高額にも関わらず、十分に稼働できず、採算がとれないものも少なくありません。
しっかりと収益を得るためには、治療方法や患者数などにもとづいてスタッフ人数、医療機器を最適化することが大切です。
【参照データ】
中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 -令和3年実施-
年収に差が出る要因を知る
整形外科開業医の年収は、クリニックごとに大きな差が生じます。同じ診療科目であっても、立地や診療方針、診療報酬の扱い方、設備投資の規模、人件費のバランスなど、複数の要素が収益に影響します。ここでは、開業医の年収に差が生まれる主な要因を整理し、収益の向上や経営リスクの回避につながる視点を解説します。
地域特性や競合を踏まえた診療方針
整形外科クリニックは地域密着型が多く、地域の人口構造や競合クリニックの数によって収益性が大きく左右されます。高齢者人口が多い地方都市・郊外エリアには慢性疾患を抱えている方が多いことから、リハビリに注力することで収益を高められます。一方、都心部には競合クリニックが多数あるため、他院との差別化戦略を進めることで利益を拡大できます。
自由診療での差別化
保険診療だけでは収益に限界があるため、自由診療を行っているクリニックが増えています。とくに、PRP療法やPFC-FD™療法などの再生医療、筋膜リリース注射などの注射療法などは自身で単価を定められるため、高収益を見込めるでしょう。
現在、再生医療の導入支援や申請代行を行う専門会社もあります。「再生医療の実施を検討しているものの、日々の診療で時間的な余裕がない」という開業医は、この専門会社に相談するのもひとつの方法です。
設備投資の最適化
最新機器を導入すれば患者さまからの満足度が向上しますが、イニシャルコストが必要になります。十分に稼働できなければ、余分なランニングコストにもなります。
そのため、設備投資をする際にはROI(投資収益率)を試算したうえで、採算性の高い設備を導入することが重要です。整形外科クリニックの開業医や経営者は、設備投資を「経営戦略の一部」として捉えて、診療方針やターゲット層に合わせて適切な形で進めしょう。
経営スキルやスタッフマネジメントの差
開業医は「医師」であると同時に「経営者」でもあります。いくら診療技術が高くても、スタッフマネジメントや会計感覚が乏しいと安定経営は難しくなります。
スタッフ配置の最適化、リハビリ稼働率の管理、診療単価の見直しなどを行うことで、しっかりと収益を上げられるようになるでしょう。
儲からない整形外科クリニックに共通する失敗
クリニックを開業しても、必ずしも経営が軌道に乗るとは限りません。地域の方々にクリニックの存在が十分に知られていなかったり、資金繰りが悪化して経営が立ち行かなくなったりするケースも見受けられます。ここでは、開業初期の整形外科クリニックが陥りやすい失敗要因を解説します。
過剰投資による資金繰りの悪化
開業当初から高額な設備を一度に揃えると、返済負担が重くなり、キャッシュフローを圧迫します。そのため、リハビリ患者数が安定するまでの間は、大規模投資を控えながら、投資の優先順位や時期を慎重に決めていくことが大切です。
集患施策の不足
現在、患者さまのほとんどがWebサイトを通じて、医療機関を選ぶ傾向があります。そのため、地域名や診療内容をホームページに反映するSEO対策、Googleビジネスプロフィールにクリニックの情報を登録するMEO対策が集患施策には欠かせません。
「口コミで患者さまが自然に集まる」と考えて、Web広告やマーケティング施策を行わないと、認知度が上がらず、競合クリニックに埋もれてしまうことを理解しておきましょう。
管理コストの放置
支出管理が曖昧なままでは、利益を上げていても資金ショートを起こしてしまい、黒字倒産のリスクがあります。毎月の損益、回収率、稼働率を定期的にモニタリングし、データにもとづいて改善を重ねることで経営の安定化を図れます。
高収益クリニックを目指すための実践戦略
整形外科クリニックが高収益を実現するためには、やみくもに診療を行うだけでは不十分です。開業前から収益モデルを意識した経営シミュレーションを行い、段階的に収益を拡大していく戦略が大切です。
開業初期からの収益設計
開業エリアを選定する際、その地域に高齢者が住む団地や住宅街、介護施設の有無に加えて、近隣の整形外科クリニック数やその診療体制を調査しましょう。そのうえで、以下の数値を具体的に設定します。
- 1日の外来患者数
- 自費診療率
- リハビリ稼働率
これらのデータをもとに損益分岐点を試算することが重要です。損益分岐点は、一般的に次の計算式で求められます。
| 損益分岐点=売上高-総費用(固定費+変動費) |
損益分岐点は、クリニック経営における基本かつ重要な経営指標です。開業前に、この数値を明確にしておくことが、安定経営へのカギを握るでしょう。
成長期には自由診療の導入を検討
開業後、1日当たりの外来患者数が設定レベルに達し、一定の経営基盤を確立できたタイミングで、自費リハビリや再生医療、注射療法などの自由診療を行うのが効果的です。顧客単価の上昇と患者さまの満足度の向上を両立させることで、再診の促進はもちろん、口コミによる新規患者の来院も期待できます。
経営の安定期に法人化・多角化を
クリニック経営が軌道に乗り、安定的な収益が見込める段階に入ったら、「法人化」と「事業の多角化」を検討するタイミングです。
法人化の最大のメリットは、税務面での優位性になります。個人開業医は所得税の累進課税により、税負担が重くなりがちですが、法人化することで法人税率の適用や役員報酬の調整による節税が可能です。また、経費計上の幅が広がるため、資金繰りの柔軟性も向上します。
さらに、法人化によって金融機関からの信用度が高まり、設備更新や分院展開の際に融資を受けやすくなる点も大きな利点です。とくに、整形外科クリニックではMRIやリハビリ機器など高額な設備導入が不可欠なため、資金調達力の強化が経営の安定化に直結します。
社会保険の加入による保障の充実と保険料負担の最適化も法人化のメリットです。ただし、事務手続きの増加や運営コストの拡大も伴うことから、顧問税理士など専門家からアドバイスを得ながら段階的に進めしょう。
また、自由診療や予防リハビリなどを組み合わせた事業多角化によって、複数の収益源ができるため、より強固な経営基盤を築くことができます。
成功事例と失敗事例
年商1億円を超えた成功クリニック
地方都市で開業した整形外科医A氏は、地域の高齢者を対象とした自費リハビリ中心の診療を行ったところ、開業3年で年商1億円を突破しました。その後、リハビリの専任スタッフを増やし、大勢の患者さまを受け入れられるようにしたことで、リハビリスタッフ1人当たりの月間売上が100万円に達しています。
収益設計を見誤って失敗したクリニック
B氏は、都心部で大型クリニックを開業し、MRIやX線装置などの医療機器に1億円以上を投資しましたが、集患が追いつかず赤字経営になってしまいました。需要予測の甘さとコストの管理不足が重なり、開業から3年で閉院を余儀なくされました。採算性を考慮しなかった設備投資と、慎重な収益シミュレーションの欠如が主な原因と言えます。
開業前に確認すべきチェックリスト
整形外科クリニックの開業には、医療技術だけでなく経営、人材、設備といった多面的な準備が必要です。開業計画の段階で見落としがあると、開業直後に思わぬ課題へと発展する可能性もあります。
以下に、整形外科クリニックの開業を成功させるための事前チェックポイントをまとめました。
- 想定患者数と損益分岐点の試算
- 診療圏調査(競合・人口構成)
- 資金調達・融資条件の確認
- 自費診療導入の余地
- 専門家(税理士・コンサル・弁護士)の選定
これらを開業の検討段階で、必ず確認しておくことでリスクを抑えながら安定した経営に一歩近づくことができます。
開業医で成功するには事前準備と経営戦略の策定が重要

整形外科クリニックの開業医は、戦略次第で勤務医時代を上回る収入を得られる可能性があります。それを叶えるためには、初期投資、スタッフマネジメント、経営判断といった「経営者としての力」が必要です。
つまり、「整形外科開業医で成功する医師」とは、医療技術に加えて、経営とマーケティングの両方を理解、実践できる医師です。
開業を「ゴール」ではなく「長期的な経営のスタート」と捉え、周到な事前準備とと柔軟な経営戦略を行っていくことが、安定した収益と患者さまの満足度の高さの両立につながる最善の道と言えるでしょう。
