インタビュー(開業医向けサイト)
「再生医療申請」は丸投げできる?|再生医療に強い特定行政書士に依頼するメリットと導入時の注意点

整形外科の自由診療において、PRP療法や幹細胞治療などの再生医療は、手術以外の選択肢を求める患者ニーズに応える強力な武器となります。しかし、その導入には「再生医療等安全性(安確法)」という極めて厳格なハードルが存在します。
2026年の行政書士法改正により、これまでの「コンサル任せ」の運用が通用しなくなる時代が到来しました。再生医療導入の最前線で数多くの届出を支援してきた元特定行政書士・榎本希さんに、院長が今すぐ知っておくべき実務の急所を伺いました。
再生医療等の責任の所在は医療機関にある
――榎本さんのご経歴を教えてください。
私はこれまで「特定行政書士」として、医療法人の設立認可や分院展開、そして再生医療等安全性確保法に基づく行政手続きを専門に手がけてきました。特定行政書士とは、行政庁による許認可等に関する不服申立ての手続きまで代理できる資格です。
特に整形外科領域では、PRP療法やAPS療法、脂肪由来幹細胞を用いた変形性膝関節症治療など、自由診療を新たに導入したいという先生方から数多くのご相談をいただいてきました。地方厚生局との事前相談から、認定再生医療等委員会でのプレゼン対策、実地検査への立ち会いまで、現場の泥臭い部分も含めて一気通貫でサポートしてきた経験があります。
――再生医療等の導入時、自施設・委託で必要な届出には何がありますか?
再生医療を行うには、大きく分けて「場所(施設)」に関する届出と、「内容(治療計画)」に関する届出の2つが必要です。
1. 施設に関する手続き
クリニック内で血液を遠心分離してPRPを作製したり、細胞を培養したりする場合は、「特定細胞加工物製造届」を提出しなければなりません。これは、その施設が細胞を適切に処理できる衛生環境や設備を備えていることを証明するものです。もし外部の特定細胞加工物製造施設(いわゆるCPC)に委託する場合は、その委託先との契約関係も明確にする必要があります。
2. 治療計画に関する手続き
新規で再生医療等を行う場合、認定再生医療等委員会が実施する審査を受けなくてはいけません審査を受けるために提出するのが、「提供計画書」です。対象となる疾患、治療のメカニズム、期待される効果、想定されるリスク、そして万が一の健康被害に対する補償体制などを詳細に記載した書類です。
再生医療等にはそのリスクに応じ、第1種・第2種・第3種に分類されており、各分類に応じた提供計画の作成を行います。

※出典 再生医療等の安全性の確保等に関する法律について|厚生労働省
3. 維持・運用に関する手続き
意外と見落とされるのが、導入後の手続きです。
- 変更届出: 看護師や医師の交代・追加、プロトコルの変更などがあれば、事前に審査委員会での審査が必要です。審査後、地方厚生局に書類を提出します。
- 軽微変更届出:メールアドレスや電話番号などの変更があれば、変更日から10日以内に地方厚生局に書類を提出します。審査委員会での審査は不要です。
- 定期報告: 1年に1度、実施件数や副作用の有無を報告する義務があります。
これらは単なる事務作業ではなく、法律で定められた「義務」です。「書類の提出や報告の義務があることを知らなかった」では済まされないので、審査が受理され、治療提供が開始されてからも運用上、どういった対応が必要になるかは事前に調べておいたほうがよいでしょう。
――導入時の注意点はありますか?
「行政手続きが完了すればOK」と考えてしまう先生がとても多いのですが、実は申請が受理されたあとも忘れてはいけないことがたくさんあります。導入時は以下の3点に特に注意してください。
1. 年間の運用コストを甘く見ない
必要機材の選定だけでなく、日々の運用ログの管理や定期報告の準備には多大なリソースが割かれます。また、認定再生医療等委員会への「審査料」が毎年、あるいは更新ごとにかかる点も収支計画に組み込む必要があります。この年間の運用コストが意外と見逃されがちです。
毎年1回の定期報告に費用がかかりますが、第3種再生医療等を提供するクリニックの場合、目安として5万円で済む委員会もあれば、30万円の支払いが必要な委員会もあります。こうした委員会の選定に頭を抱えるクリニックの先生も少なくありません。
2. 「定期報告」の漏れが散見される
多くのクリニックが、日々の忙しさから年1回の報告義務を失念しがちです。しかし、再生医療等安全性確保法における「責任の所在」は、コンサル会社でも行政書士でもなく、あくまで実施する医療機関(管理者である院長)にあります。
未提出の場合、提供をスタートした時点まで遡ってカルテ等を確認し、報告書に記載すべき項目をすべて埋めて提出する必要がありますし、経緯書の提出も求められます。
地方厚生局から定期報告のリマインドメールが届くはずなんですが、メールを見逃していたり、アドレスの変更届出を提出し忘れていたりして何年も定期報告をしていなかったというケースもあります。
「メーカーがやってくれると言ったから」という言い訳は行政には通用しません。法的な不備があった際、最終的に責任を負うのはドクター自身であるという自覚が不可欠です。
審査の開催頻度は委員会ごとに異なる点に注意
――なぜ、提供計画書が必要なのでしょうか?
再生医療は、従来の医薬品や医療機器とは異なり、身体への影響が未知数な部分も含まれます。そのため制度上、その治療に科学的妥当性があるか、安全性は担保されているかを事前に審査し、計画通りに実施することを約束させるのが「提供計画書」の役割です。
計画書には、用いる細胞の調製方法から、禁忌、副作用発生時の対応まで詳細に記載します。年に1回の定期報告は、いわば「計画通りに安全に行われ、科学的妥当性が保たれているか」を国が確認するためのプロセスなのです。
――治療を開始するまでの大まかな流れを教えてください。
大きく分けて以下の5ステップがあります。
- 準備: 治療プロトコルの決定、施設基準の確認、機材の選定。PRP・幹細胞などを院内で加工するためのCPCの届出を行う。外部の細胞加工施設を利用する場合は、委託契約書を準備する。
- 計画書の作成:再生医療等提供計画書の作成。ご自身で作成する場合は、e-再生医療サイトより所定の申請書を取得する
- 委員会審査: 認定再生医療等委員会へ提供計画書を提出し、意見書を取得する。
- 受理・届出: 提供計画書に意見書を添付し、所轄の地方厚生局へ提出する。
- 治療開始: 計画に基づいた治療を実施する。
治療の開始まで早ければ1.5ヶ月、一般的には3ヶ月程度ですが、医療機関のレスポンスやどの認定再生医療等委員会を選ぶかによって大きく変わります。
審査を毎月開催するか、不定期かは委員会ごとに異なるため、受理までのスピードも選ぶ委員会によって異なる点に注意してください。また、審査料の設定も委員会ごとにまちまちですから、安いからといって開催頻度が低い委員会を選ぶと、導入が数ヶ月遅れ、結果として機会損失という大きなコストを支払うことになりかねません。
再生医療等の導入運用をワンストップでサポート
――再生医療の届け出を専門の行政書士に依頼するメリットは?
最大のメリットは「医師が診療に専念できる環境を守ること」、そして「法的な防波堤になること」です。 複雑な通知やガイドラインを読み込み、行政担当者と専門用語で渡り合うのは、多忙な院長にとって現実的ではありません。専門家が介在することで、書類の不備による差し戻しを防ぎ、最短ルートでの導入を支援します。
再生医療分野は成長市場ではありますが、法整備や体制面ではまだまだ成熟していないように思えます。法改正があれば、複雑な書類対応や専門的な手続きに対応しなくてはいけないため再生医療に強い特定行政書士に依頼することが導入の近道と言えるでしょう。
――2025年には、どんな法改正がありましたか?
2025年の改正では、透明性の確保と適格性の厳格化がより進みました。具体的には次のような範囲で変更がありました。
- 治療領域の拡大: 遺伝子改変技術を用いた治療などが新たに法の適用範囲に含まれた。
- 医師の適格性の厳格化: 誰でもできるわけではなく、当該治療に関する十分な知識・経験がより厳しく問われるようになった。
- 立ち入り検査の整備: 委員会側へのチェック機能も強化された。
――2025年の改正後、提供計画に役務の提供について記載が必須になりました※が、その背景について教えてください。
これは非常に重要な変更です。背景には、医療機関、コンサル・メーカー、そして審査を行う委員会との間の「利益相反」があります。 これまでは、特定のメーカーが「自社製品を使ってほしい」という意図で、つながりのある委員会に審査を誘導するようなケースがありました。これを是正するため、書類作成を誰が支援したか、どのような金銭のやり取り(役務提供)があったかを明記することが義務付けられたのです。
※出典 再生医療等提供計画等の記載要領等について|厚生労働省
――2026年は、どんな法改正がありますか?
再生医療等安全性確保法そのものではありませんが、「行政書士法」の改正※が大きな影響を及ぼします。
これまで、コンサルティング会社や細胞加工受託会社(CPC)が「申請サポート」という名目で、実質的に届出書類を作成し報酬を得ているグレーなケースが多く見られました。しかし、2026年からは「名目の如何を問わず」、行政書士資格のない者が報酬を得て官公署提出書類を作成することは明確な法律違反となります。
「うちはサポート料として払っているから大丈夫」という理屈は通用しなくなります。無資格者による書類作成が発覚した場合、依頼した医療機関側もトラブルに巻き込まれるリスクがあるため、注意が必要です。
※出典 総務省|行政書士制度
――法改正で変わる行政書士の役割とは?
これからの行政書士は、単なる「代書屋」ではありません。 法改正によって「誰が、どのような権限で書類を作ったか」が厳格化される中、行政書士は「コンプライアンスの守護神」としての役割を強く求められるでしょう。
メーカーやコンサルから独立した立場で、客観的に計画書の妥当性をチェックし、正当な手続きを担保する。つまり、先生方があとから「知らなかった」で行政処分を受けるリスクをゼロに近づけるのが、真のプロの仕事になります。
――最後に、開業医・クリニック経営者へのメッセージをお願いします。
再生医療は整形外科の未来を切り拓く素晴らしい治療です。しかし、その土台となるのは「適正な手続き」という信頼です。2025年、2026年の法改正は、一見するとハードルが上がったように見えますが、真摯に医療に取り組む先生方にとっては、悪質な業者を排除し、安心して治療を提供できる環境が整ったとも言えます。
「手続きでつまづきたくない」「法改正に正しく対応したい」とお考えであれば、ぜひ早い段階で専門家にご相談ください。盤石な法務基盤の上にこそ、患者さんに喜ばれる自由診療が成り立つと信じています。
インタビューした専門家


元特定行政書士
榎本 希(えのもと のぞみ)
再生医療等委員会委員(一般)、日本再生医療学会正会員。高校卒業後から接客業、クリニック・病院等の看護助手、デイサービスでの介護職員、東京医科歯科大学の研究室での技術職、順天堂大学医局での実験助手として勤務。2018年、再生医療等を専門に扱う行政書士事務所を開所。2026年3月まで運営。
